2022/10/09

開放型ヘッドフォン雑感:GRADO RS2x(+α)

 前回、M7の雑感を記した際、最後に「次何か買うとしたらGRADOかも?」とか宣っていたワケだが。
 ――――ホントに買っちゃったよ、GRADO。(乾笑


 言い訳させてもらうと、「何れGRADO買うとしても何が良いかなー、RS1xとRS2xならどっちが良いかなー」なんて考えながらRS1x・RS2xのレビューを国内外問わず探し回っていた丁度その時に、某店でGRADO製品が派手に値下げされているのを知ったのがマズかった。
 だって二割引きだぞ二割引! ポイント値引きの実質価格とかじゃなくて、現金値引きで二割引は為替レートによる海外製品の価格高騰著しい昨今にあって破格過ぎるだろ……!(力説+目線明後日+滝汗
 ……まあ要するに、また物欲に負けていつもの衝動買いをやらかしてしまっただけである。(遠目

 初GRADO故に機種の選定にはかなりの時間を要した。特にRS1xとRS2xではめっちゃ悩んだ。更に言えばSR325xも割と迷った。大分値段落とせるし。
 初めにRS1xとRS2xの何方か一方にする事を決めて、それから海外レビューを散々漁った末、最終的にRS2xをチョイスすることにした。
 決め手としては、

・RS2xの方がGRADOらしい音、所謂ハウスサウンドを期待出来そう
・RS1xはトライウッドハウジングによる共振に独特な癖があるっぽい?
・中低域はRS1xが強いものの、RS2xの方が最低域まできちんと鳴るらしい
・ジンバル素材の差異による重量差(RS1x:金属、RS2x:プラ)
・価格(RS1x:90k、RS2x:66k ※共に値引き後)

 ……以上の通り。
 前世代のRS1eでも同じ事言えるっぽいが、どうもオンイヤータイプの小さめなハウジングに50mmドライバ積んだRS1e・RS1xは使い熟しが難しいと言うか好みが分かれやすいらしく、仮にGRADOの50mmドライバを本格的に楽しみたいなら、アラウンドイヤータイプの上級機であるGSシリーズまでステップアップしてしまった方が良さそう、という…
 つい先程RS2xとRS1xの価格を天秤に掛けた旨を書いたが、しかし約90kという出費をまるで覚悟していなくて土壇場でカネが惜しくなったってワケじゃなく、事前調査の結果として、
「ドライバやハウジングによるクセが強そうなRS1xよりも、伝統的GRADOサウンドらしく音色素直っぽいRS2xの方が、GRADO初心者の自分には丁度良さ気」
 ――と、判断するに至った次第。

 そんなワケで、自分もとうとう紳士のヘッドフォンと(悪)名高いGRADOデビューを果たしてしまった。
 装着感がヒドいとかケーブルがゴツいとか、そもそも造りがチープ過ぎて民芸品にしか見えないとか、散々な言われ方しているのはずーっと前から知っており、いつかは試してみたいなーと長らく思っていたので、今回の購入は中々感慨深いモノがあったり。

 ……実を言うと、今回RS1xとRS2xで迷うよりもかなり前、某世界的超有名ロックバンドの某アルバムにインスパイアされたらしい限定モデル「The White Headphone」の存在を知って、見た目が好みだった故購入を真剣に迷った時期があったが、結局ソレはお流れになった。
 此度RS2xを入手し、その音を体験した後になって考えれば、結構評価割れ気味だったThe White Headphoneを見送ったのは、正直正解だったなあ、と。


 さて本題。
 購入店舗から届いたダンボール箱を開けて、RS2xの箱を取り出してみる。……分かっちゃいたがめっちゃ軽い。Shanling M7の箱の方が重量感あったぞコレ…
 ヘッドフォンのスペック表記を兼ねた封印シールをカッターで慎重に切断し、開封。ガバッと箱を開けて、RS2x本体といざ御対面。

 ――そして、思わず硬直。
 嗚呼、民芸品とか言われてるのも宜なるかな……(引攣笑

 率直に言おう――見た目すんごいチープ。コレが値引き前なら80kオーバーするとか正気か!?、とドン引きするレベル。
 一応フォローすると、ヘッドバンドはちゃんと天然皮革(牛革?)を使ってるみたいだし、ハウジングは楓-麻-楓の三層構造で実に凝った造りである。……そのハズなのだが、兎に角全体的な雰囲気が実に安っぽくて困る。
 ……値引き後でも66kかー、しかもこの見た目でかー……(遠目

 更にケーブルが超ゴツい。先ず太い。そんで編み込み被覆がやたら繊維キツいヤツ使っててすんげえゴワゴワ。とてもヘッドフォンのケーブルにゃ見えない。一体なんなんコレ。(困惑
 まあ昔のGRADOフォンはケーブル被覆がゴム?で、分岐部辺りで被覆が裂けてしまい中の線材が露出する、なんてしょーもない事態が発生してたらしい事踏まえりゃ、格段にマシになったと言えるのかもしれないが…

 経年劣化すると宛ら砂の如く崩れていくというイヤーパッドにも驚愕。いやもうただのスポンジじゃねーのなんなんすかコレ??(混乱
 でもよく見ると多層構造になってて層毎の弾力が微妙に異なっており、マジで「ただのスポンジ」ってワケじゃ無さそうなのが良い具合に認識を狂わしてくるとゆーか…

 初めてのGRADOクオリティに散々戸惑いつつ、いつものように端子を接点復活剤(Cleansable)でメンテ。オーバーヘッド且つプラグがアンバランスの3.5mmって事を踏まえ、初っ端は取り敢えずXD-05 Plusで鳴らしてみた。ソースはM3XからのLDACで簡単に。


 音出し一発目の感想は「なんつー明瞭感してんのコイツ!?」。
 明瞭感の高さが半端ではなく、曇りだの籠もりだのが一切感じられない。間違い無く確実に手持ちのヘッドフォン・イヤフォンで最強の明瞭感。一発で「あーダメだ、自分この音大好物やわー」と聴き惚れてしまった。

 GRADOのヘッドフォンと言うと、事前のイメージとしては、
「ドンシャリでロック向き、明るい音でモニターというよりは明確にリスニング向け、しかしある意味原音に非常に忠実」
 ……という、かなりアグレッシブでメリハリのはっきりした、それこそハードロックとかヘヴィメタルにマッチしそうな、失礼ながらぶっちゃけ雑目な鳴りを想像していた。

 が、実際に自分の耳で体験したRS2xの音は、そんな予想とは掛け離れたものだった。
 何と言っても明瞭感の高さが際立ってはいるが、じっくり聴き込むと何かと「素性の良さ」みたいなモノを感じるというか。……忌憚無く言うと「チープな見た目からは想像出来ない程、端正な音作りが為されている」のだ。
 意識すれば分け離せるが、そうでなければ一纏まりで聞こえる丁度良い分離感。ほぼ完全開放型めいた構造故の良好な音抜けと、それによる圧迫感の無さ。圧倒的な明瞭感を誇る中域を囲む、良く伸びて行く高域と引き締まって下の方まで響く低域。
 確かにモニターヘッドフォンのようなカチッとした正確さを感じる鳴りではないが、しかし安物でよく見られる安直なドンシャリバランスとは程遠く、決して「雑な」音ではない。むしろ如何にも高級ヘッドフォンらしい、「整った」風情に大変驚かされてしまった。

 DTM・EDM等の所謂「打ち込み系」に適すと評され易いGRADOフォンだが、RS2xを使ってみた感じ、取り立てて苦手とするようなジャンルは無く、個人的にはフツーにオールジャンル何でも楽しく聞けそうな印象。強いて言えば、明瞭感に優れ圧迫感の無いスカッと爽やかな響き方をする機種なので、ダウナーでスローでダークな曲調には向かないかなー?、って感じ。
 上述したように「素性が良い」――穿って言えば、ドライバのレスポンスからハウジングによる反響まで含めたトータルスペックの高さを感じさせる音だし、「コレは壊滅的に合わない!」ってパターンはそうそう無いんじゃ無かろうか、なんて。

 注意点として、「ブレークインで結構音が変わる」。
 個人的にはブレークイン(所謂エージング)の効果は偽薬効果(プラセボ)による面が多分に含まれると考えているので過信するつもりは無いが、その上で、鳴らし初めの頃は「高域がちょっとシャリついて刺さり気味+全体的にスピード感がおっそくてもたつく」って感じだったのが、しばらく鳴らし込むと殆ど解消されて気にならなくなっていたり。

 また、上流によって音が変わり易いっぽい。
 RS2xの駆動はXD-05 Plus→Shanring M7→ADI-2 DAC FS→Shanring M7→XD-05 Plusとスイッチしていって、ADI-2 DAC FS使って鳴らしてみた時点で上述のもたつきはほぼ解消されていたが、その上でADI-2 DAC FS・Shanring M7・XD-05 Plusの三つの上流それぞれに於いて、微妙な鳴り加減の変化を感じた。

 ADI-2 DAC FSは兎に角解像感がダントツで、特に高域はやや刺さりを感じる程に鮮烈。それでいて低域の薄さを感じることも無い、と流石のプロ用モニタークオリティ。
 対してShanring M7はADI-2 DAC FSと比較して高域のエッジが丸められており、解像感は若干劣るものの聞き易さに優れるリスニング系チューニング。DAPながら駆動力不足な薄っぺらい鳴らし方はせず、ADI-2 DAC FSに迫る力感を備えているのは感心。
 最後にXD-05 Plusだが、M7程高域を丸めてはいないがADI-2 DAC FS程の解像感を感じる事も無く、両者の丁度中間的なバランスに感じた。但し二機に比べて鳴らし方が少々サッパリしており、力感はやや劣る。特に低域で顕著。だがRS2xの音色に合致しているのか、聞いていて其程不満足感は無い。


 一頻り音周りについて記述した所で、そろそろソレ以外について言及すると、
・装着感は独特
・音漏れは漏れとかいう次元ではない
・鳴らし易さはまあまあ

 先ず装着感だが、GRADOフォン特有のスポンジ系イヤーパッドの感触がマジ独特。キメ細かいウレタンフォームのような柔らかく滑らかな肌当たりは無い。が、意外と不快感も無い。そして何気に蒸れ感が殆ど無いのは、明確な強みに数えて良いのではなかろうか。頭頂部の負荷も、元々が軽量なのでそれ程強くない。
 総じて「物凄く快適ではないが、さりとて格別不快でもなく、概ね問題無しと言えるレベル」。……ある意味、奇跡的なバランスな気がしないでもない。

 音漏れは考えるだけ野暮。ほぼ完全開放型に等しい構造なのでダダ漏れもいいトコ。Edition XSも中々ヒドかったが、RS2xの漏れっぷりは、何かもう、論ずるに値しないレベルっちゅーか……(目線明後日
 ヘッドフォンハンガーに吊るしてプレイリストをテキトーに鳴らしてやればミニコンポの出来上がりである。しかも多分コレ下手な安物スピーカーより音良いんじゃないかねえ……(なげやり

 感度とインピーダンスは99.8dB/32ohmで鳴らし易さは程々。BA積んだ高感度IEMに見られる複雑怪奇なインピーダンス特性とはどうせ無縁だろうし、昨今のDAPなら音量稼ぐだけなら先ず問題無かろう。
 ……と思っていたのだが、ちゃんとドライバ特性計った方によると、どうやら低域に急激なインピーダンスのピークが見られるらしく、ってことは上流の駆動力がショボいと低音が痩せ易いっぽい。一応自環境を例に取ると、Shanring M7でRS2xを鳴らした際に低域の不足を感じた事は無いので、そのくらいの駆動力があれば大丈夫と思われる。むしろ怪しいのはXD-05 Plusか。……尤も、XD-05 PlusとRS2xのペアリングは駆動力不足と言うか、むしろ駆動力過剰で音量を絞り難い(※アナログボリュームなので絞り過ぎるとギャングエラーを誘発してしまう)、って方向性の厄介さな気もするが……


 ――とまあ、初めてのGRADO使用レポとしてはザッとこんなもんだろーか。
 ヘッドフォンやイヤフォン等のパーソナルオーディオに凝り始めてもう十年以上経つが、その頃から噂には聞いていた、所謂「全裸紳士フォン」なる謎ワードの対象をようやくこの目で確かめる事が出来て、妙な満足感を感じてしまっているのが我乍ら大概沼ってるよなあ、っつーか。(苦笑
 その一方、自らの耳で体験したGRADOの音は予め想定していたよりも遥かに全うでマトモな「値段相応の音質」で、良い意味で予想を裏切られた感強め。GRADOフォンを複数所持している方曰く「X世代になって一皮剥けて音が整った」らしいが、……ソレならソレで、一皮剥ける前の如何にもアメリカンで荒々しい?旧世代の音も気になってしまいますねえ……(※最早病気






 以下、最近の買い物とかちょっと前の買い物とかについて。
 興味が有る方は続きをどーぞ。

アニメーション雑感:機動戦士ガンダム 水星の魔女

 鉄血のオルフェンズ以来となる、アナザーガンダムシリーズの新作。
 当初「女性主人公の学園モノでヒロインも女性、即ち百合ガンダム?」と噂を聞いて、殊更に百合展開を好まない性分としては「あんま百合に拘るなら敬遠かなあ…」と思っていたのだが、10/2から始まる本編の前日譚「Prologue」を見た層の感想がどうにも(良い意味で)キナ臭く、本編開始直前に、Prime Videoでの配信が解禁されていたPrologueを取り敢えず観てみた。

 ――そして、確信した。
 嗚呼、コレは確かに「ガンダム」だ、と。

 その後、本編もリアルタイムで観て、更に本編放送後に公開された公式小説「ゆりかごの星」、及びソレを元に創られたという主題歌「祝福」の歌詞も読み込んで、現在、俄然今後に期待していたり。
 ガンダムで百合展開!?、という部分ばかり騒ぎになっているきらいがあるというか、実際本編第一話観ただけだと確かにそんな感じなのだが、……Prologueとゆりかごの星を挟んだ途端にアラ不思議、いつものガンダムの不穏な空気が出来上がり、という構成が良い感じに此方の脳ミソをシェイクしまくってきた。

 特にPrologueは、自分のように百合要素に懸念を抱いてしまうタイプのガンダムマニアが観た場合、その「ガンダム」らしい不条理感にある意味ホッとすると同時に、今までに無い、余りにも衝撃的に過ぎる展開で情緒が崩壊する事必至。いやまあ後者はマニアでなくとも只管混乱させられるだろうが…
 そして第一話を観た後に「ゆりかごの星」を読めば、「彼」の「彼女」への想いに尊みを感じつつも、明らかになったPrologueから第一話までの軌跡に、どうしようも無いやるせなさを覚えてしまうハズ。……今回のガンダム、感情の振れ幅がちょっと大き過ぎじゃない??

 既にネットやSNS上で散々感想やら考察が為されている本作だが、自分も観劇していて少々気になってつい深読みもとい妄想してしまった点を以下に書き記してみようと思う。


・ルブリスの戦闘機動
 エリィことエリクトによって「レイヤー33からのコールバック」が得られた事で、完全起動を果たしたルブリス。そしてルブリスはエリィがモニタ上で指し示した三機の敵MSを、「極めてスムーズな動きで」瞬く間に撃墜せしめた。
 ……が。此処、よく考えると中々疑問が生じるシーンである。

 作中に於けるガンダムは「GUND-ARM」――元々は義肢技術である「GUND」を、MSという兵器の制御システムに拡張・発展させ搭載したMSを指すらしい。作中描写等から見て、つまり本作のガンダムはパイロットと神経接続ないしは同調を行う事で、従来機とは隔絶した機動性能を実現しているのだろう。
 要は「思考制御」――頭で思い描いた通りに機体を動かせる、エヴァのシンクロ率とか、ネクストのAMSとか、鉄血の阿頼耶識とか、あの辺の系譜と思われる。

 ……しかし。
 だとすれば劇中の、ルブリスの「極めてスムーズな戦闘機動」は、一体「誰のビジョン[操作]によるもの」なのか?

 エリィである可能性は低い。僅か四歳の幼児に、MSの戦闘機動というビジョンが有る筈も無い。
 同乗していたエリィの母エルノラの可能性も低い。彼女は、エリィの手指に導かれるままルブリスが敵機を立て続けに瞬殺する様を、呆然と見遣るだけだった。一応、MSの戦闘機動に関して言えば、エリィよりは遥かに詳しい知識を持っているかも知れないが、少なくともあの瞬間に於いて、彼女が主体的にルブリスの操作を行っていたようにはとても見えない。

 では、一体誰が?
 ……恐らくだが、LF-03「ガンダム・ルブリス」、ソレ自体によるものではないかと自分は考えている。

 後述しているが、ルブリスの改修機or後継機?であるガンダム・エアリアルにはどうも明確な自意識が存在しているっぽい。ならば、ほぼ確実にエアリアルの前身であるルブリスにも、程度の差こそあれ「ルブリス」という自意識があってもおかしくは無い。
 また、ソレ――「ルブリス」が目覚めたのはほぼ確実に、「彼」がエリィと接触、そして彼女を認識したその時だろう。レイヤー33はおろか、レイヤー34という更に深い階層との同調を果たし、ビットを何の身体的負荷も無く操ったエリィこそが、長らく目覚めなかった「ルブリス」という赤子を呼び覚ましたのだ。そうして覚醒したルブリスは、自身と繋がったエリィを守る為に、MSという機動兵器たる己の機能を行使したのではないだろうか?


・エアリアルに意思は有るか、否か
 「ゆりかごの星」の語り部は、まさかの主人公機「ガンダム・エアリアル」そのものだった訳だが、コレはあくまでも小説に於ける擬人化と言うか、そういう表現に過ぎないのでは?、と見る向きもある。
 確かにその可能性が無いとは言い切れないが、個人的にはガンダム・エアリアルに「エアリアル」という意思・自我は有る、と考えている。

 そう思うに至った描写は以下の通り。

【ライブラリを見る? とスレッタにメニューを表示すると、お気に入りのアニメを選んだ。】
 地球ってどんなところ?、というスレッタの質問に対して、エアリアルは「メニューを表示する」という形で明確に「返答を行っている」という、何気に凄いシーン。

【「エアリアル、出力は私が調整する」】
 「私が」調整する、という事は「エアリアルが」主体的に調整する事も可能なハズ。だがエアリアルはスレッタに出力調整の主体を委譲しているワケで。
 つまり両者の間で、提案と受諾、というコミュニケーションが成り立っている事を示している、ように感じられた。

【僕は同意の意味をこめて、モニタ表示を二回瞬かせた。】
 決め手と言うか、そりゃこんな記述されたら単なる偶然なんて思えない、どー考えてもエアリアル自身の「感情」が有るよなあ、という。

 ……そして。
 エアリアルに固有の意思・自我があるという事、その上ソレによる機体の制御が可能である、と言う事は、「GUND-ARM」という存在について一つの可能性を生じさせる。


・GUND-ARMが目指す所
 義肢技術であるGUNDは、ばぁばこと博士に言わせれば「過酷な宇宙という空間で、人間が生きてゆけるようにする」為のテクノロジーらしい。人体をサイボーグ化することで、宇宙という環境に負けないようにする、って事だろう。
 ならば、GUNDフォーマットによりパイロットと同調して稼動するGUND-ARM、ガンダムというMSは、言ってみれば「全身がGUNDで構成された、凡そ20m程度に迄拡大された「ヒトガタ」、つまり「巨大化されたヒトの身体」」と見れなくはないだろうか?
 そしてその場合、巨大化したヒトの身体たるガンダムの思考中枢は、恐らくガンダムと同調を行うパイロットが担う事になると思われる。……基本的には。

 だが、ガンダム・エアリアルは「エアリアル」という固有の意思・自我を有している可能性が高い。しかもその情緒は、「復讐」という極めて人間臭い情動を理解し、自身の相棒であり家族である少女を、大切であるが故に其処から遠ざけさせたい、と思考する程に高度なものだ。
 要は、本来パイロットが担うべき、鋼の身体を司る思考中枢――脳に相当するシステム、それも自分自身の独立したソレを、ガンダム・エアリアルは既に得てしまっている。これは即ち、ガンダム・エアリアルは、GUNDという技術によって実現した、「鋼の身体持つヒト」そのものなのでは?、と。

 ……そしてその実、その有り様こそが、GUNDの目指す最果てではないだろうか?

 作中描写を見るに、GUNDは人体のほぼ全ての置換を可能としているように見える。強いて言えば首から上の完全置換が為されていないだけで、逆に首から下の置換はほぼ実現済っぽい。
 此処で先のガンダム・エアリアルを思い返すと、GUNDフォーマットに則って造られた「彼」は生物的な有機組織を持ち合わせていないが、しかし家族や復讐と言った複雑な生物的・人間的情緒を理解出来る思考中枢を持ち、自意識に目覚めている。
 逆に言えば「自我を確立させたガンダム」の成立は、人体のGUNDによる完全置換の可能性を一気に切り開き得る存在に等しい。エアリアルの思考中枢を解析し、リバースエンジニアリング出来れば、ヒトの脳、意識や自我を、完全に電子化出来る道筋が立つ可能性が非常に高い。

 脆弱な生物的身体から脱却し、宇宙という過酷な環境に耐え得る身体に、ヒトの姿形、在り様を改めることを可能にする――
 博士が目指していたGUNDの未来とは、そんなビジョンなのではなかろうか。


・「ガンダム」を目覚めさせたモノ
 「GUNDによる完全なヒトの模倣と拡張」がガンダムの目指したモノであるなら、あの時何故、エリィがルブリスを目覚めさせ得たかについても、凡そアタリが付き得る。

 三、四歳の幼児期は未だ未だ脳が未発達で、それこそ「自身の身体機能を脳がきちんと把握しきれていない」程であることが、実際の研究で現実に報告されている。
 しかしその一方で、幼児期は聴覚的な言語認識能力が非常に高く、この時期に上手い事多数の言語に耳を慣らしてやれば、将来マルチリンガルになる基礎を築く事が出来る。だが単一の言語しか聞かれない環境に居ずっぱりだと、その言語を捉える為の神経的繋がりを残して、他の繋がりは衰えて絶えていってしまうのだとか。
 つまり幼子の無垢な脳は、「深いが狭い」大人の脳に対して、「浅いがとても広い」神経的繋がりを有しており、大変豊かな可能性を宿しているのだ。

 エリィがルブリスと繋がるまで、「ルブリス」が知っていたのは「大人」というシステムだけだった。発達したが故に、可能性としては狭いモノであるネットワークしか知らなかった。
 だがルブリスは、あの日エリィと繋がった。四歳の子供という、未発達で、無垢な、広く可能性に富んだネットワークを知る事が出来た。

 きっと、その瞬間だろう――「ガンダム」が、完成したのは。

 発達した成人のパターンだけでなく、無垢で未発達な幼子というパターンを認識した事で、「ルブリス」はヒトのニューロンネットワークをほぼ完全にエミュレート出来るようになり、それによって自意識を確立した――――そんな所ではないだろうか?


 …………と、まあどのトピックも既に諸説飛び交っている模様だが、自分はこんな感じかなー、と考えたり思ったりしていた。
 百合で学園でガンダム?!、と思ってたらPrologueとゆりかごの星の内容がヘヴィ過ぎる上に、主題歌「祝福」でエアリアルのスレッタに向ける感情が良い意味で激重過ぎて、その上色々と考察やら妄想やらが捗りそうな展開と設定だもんだから、かーなーり各方面で話題を掻っ攫ってる気がする。

 ただ一つ言えるのは、「絶対にただの百合アニメではないぞ…」って事か。
 何せ「機動戦士ガンダム」の名を冠する以上、その物語は「人の『業』」をコレでもかと描いてくる事は間違い無い。キマシタワーな話を期待し過ぎると確実に足元をすくわれるので、百合好きは覚悟した方が良いぞー?
 尚、宇宙世紀勢の自分としては憎み合い宇宙な激重展開でもバッチコイですが、何か。(ぇ

2022/09/02

レファレンス級DAP雑感:Shanling M7 ファーストインプレッション

 4.4mm出力やデジタルトランスポートとしててんてこ舞いなShanling M3X。エントリークラスながら、プレイヤーとしての音質からAndroid OS端末としての機能性まで手堅く纏まっていて大変重宝しているが、やはり我が一番のレファレンス環境であるRME ADI-2 DAC FSと比較してしまうと、音質面でちょっとパッとしない面がある事は否めなかった。
 その為、M3X購入後もDAPやPHPAの物色はずっと続けており、取り分けDAPを意識して日頃から新製品情報等、各メーカーのプレスリリースやAV系メディア、ブログを注視していた。相対的に優先度が低かったPHPAについても、iFi xDSD Gryphon等は相当迷ったっつーか、正直今でも面白そうだなーと考えていたり。

 Shanling M7は海外で新製品として案内があってから、今の今まで注目し続けていたDAPで、製品の構成に比して然程値が高価く無い点にかなり惹かれていた。特に、据え置き向けのハイスペックDAC「ES9038Pro」を、電源回路の都合上ポータブルオーディオでは扱い難い電流出力で敢えて動作させるという辺りは、中々にマニア心を擽られてしまった。
 尤も、ドル価格$1249は現在のドル→円レートだと日本円で160kを軽々超えてくる為、気にはなっていても中々手を出す決心は付かなかった。出来ればケース・ジャケット等込み130k未満で手を打てないものかと考えて色々探したものの、M7以上、或いはM7並にそそられる選択肢が見付からず、まあ今後の新製品を待つしかないかー……と黄昏ていた。

 そんな折、中華SNSのWeiboにて、Shanling公式がその時点では未だ発売前だったM7について解説している記事を読む機会を得て、…………一頻りソレを読み下した後、我乍ら信じ難い事に、何と改めてM7の購入を固く決意してしまったのである! えぇ……
 決め手になったのは「M7がシングルエンド(SE)出力にも拘って設計されている」事が分かったから。何でもメーカー曰く、SE出力のニーズはマニア層からも何だかんだ言って根強く残ってるらしく、M7はSEでも十分な出力を稼げるようにしたらしい。
 個人的に、ヘッドフォン用のバランス出力は「プロ用のインターフェースでは先ず使われていない」事がずーっと引っ掛かっており、やたらとバランス出力を重視して持ち上げる最近の風潮はあんま好きじゃなかったりする。愛機ADI-2 DAC FSのヘッドフォン出力はSEのみだけど、決して低出力ではないし解像感が低いワケでもないしねー。むしろ悉く逆まである。


 ところでShanlingは此処最近にM6 Ultraという、AK4493SEQ*4なんて実に突き抜けたDAC構成のDAPを発表している。まー多分、コイツは完全にバランス出力へ傾倒した機種と見て間違い無いだろう。
 M7と比較してRAMとストレージ、出力が少々減っているものの、SoCとOS、ディスプレイ解像度は据え置きで、DACの御蔭かスタミナはM7より優秀、って塩梅。M7よりもなんぼか安価ながらスペックは決して悪く無く、上述したWeiboの記事見る迄は「ほーん、んじゃM6 Ultra出るの待っとるかー」と割かし本気で考えてた。
 だがM7がSE出力にも手を抜いてない事を知った後だと、M6 UltraのAK4493SEQ*4というバランス出力特化なDAC構成がやり過ぎに見えてしまった。4.4㎜バランスだけでなくSE出力も使い込むなら、クアッドDACなんて大袈裟なシロモノよりもES9038Pro*1でシンプルに纏めたM7の方が適切なのでは?、と思い直した次第。

 他、M6 Ultra以外でM7と天秤に掛けた機種として、嘗てPHPAで名を馳せたiBassoのDX240が挙げられる。昨年末?くらいに国内発売されたDAPで、DACに何とShanling M7と同じESSのES9038Proを搭載していたり。尤も、生憎とこっちは電流出力ではなさそうだけど。
 スペック的にはM7から露骨に見劣りする部分は無く、別売の4.4mm対応アンプモジュール込みでも精々約135kとM7より大分値を落とせたのだが、どうもiBassoのDAPはアンプ等「音」に関する部分の作り込みは良くてもソフトウェアの出来がイマイチな感じで、ともすればUSBデジタル出力でトランスポート運用する可能性がある自分の環境では、既にM3Xで使い心地を把握しているShanling製品の方が良さそうだな、と考えた次第。

 そんなこんなで、とうとう100kオーバーのレファレンス級DAPにまで手を出してしまった、という…
 あーあー、やっちまったなー……(遠目

 だが先日購入したSymphonium Audio Heliosを筆頭に、オーバー40kクラスのそれなりにお高価いイヤフォンがドッと増えてしまった今、Shanling M3Xというポータブル環境はIEMから見て役不足気味と言うか、ボトルネックになっている感が拭えなかったのよねー。特にHeliosは確実にそう。
 一応、自分はADI-2 DAC FSにUSB PDトリガーケーブルとモバイルバッテリーを組合わせる事でトランスポータブル化して運用してはいるが、このやり方はぶっちゃけバッテリー管理が煩雑且つあくまでも「設置場所をコンセントに縛られず自由に変えられる」だけに過ぎない。故に、ADI-2 DAC FSに匹敵するレベルのレファレンス級ポータブル環境をゆくゆくは整えてしまいたい、と長らく思っていたのだ。

 そんなワケで購入を決断したShanling M7だが、その代わりに一つ下取交換という形で手放したモノがある。
 M3Xを入手するまではメインDAPとして、M3Xの購入後はデジタルトランスポート兼旧機種向けSE出力用DAPとして活用していた、Hidizs AP80である。
 AP80を手放すに至った要因は以下の通り。

・M3Xをデジタルトランスポートとしても使い始めてしまった
・非Android端末故に楽曲管理等端末内ファイル操作を単体で完結出来ないのが不便
・旧機種の使用頻度がずっと低空飛行状態

 嘗ては「DAPにAndroid OSなんて音質考えたら無用の長物やろ~?」と高を括っていたハズが、M3Xを使い込む内にAndroid OS端末ならではの強みを散々実感しまくってしまい、逆に非Android OSなDAPを使う気がどんどん失せてきてしまったのだから人間分からんもんである。
 WiFiファイル共有による楽曲の追加、ライブラリのディレクトリ変更、プレイリストの生ファイル直接編集等、Android OS搭載機はそれ自体が簡易的なパソコンめいて使える以上、非Android OS機よりも自由度が圧倒的に高い。利便性がケタ違いなのだ。

 折しも、某店でM7に対し「下取交換で10k値引き!」キャンペーンが未だ実施されており、仮にAP80が満額で買い取りされれば、累計で16k近くもM7の値を下げる事が可能だった。
 ならば、ここらでいっそ使用機会がめっきり減りまくってたAP80を潔く手放してしまって、代わりにM7を少しでも安く買ってしまおう、と思ったワケ。幸い、丁寧に使っていた甲斐あってAP80の状態良好だったしねー。


 さて。
 いつも通り前置きが長くなってしまったが、そろそろ本題――M7の使用感、雑感について記してみようかと。

 此処でM7のスペックについておさらいすると、

・OS:Android 10
・SoC:Qualcomm Snapdragon 665
・RAM:6GB
・Storage:128GB+microSD
・Display:5inch, 1920*1080, by SHARP
・Battery:7000mAh
・Bluetooth:5.0
・Weight:320g

・DAC:ESS ES9038Pro in current-mode
・Output:3.5㎜ single ended+4.4mm balanced
・Power:400mW/32ohm(SE)+900mW/32ohm(BAL)
・Output Impedance:<1ohm
・Play Time:10h(SE)+8.5h(BAL)

 DAP以前にAndroid OS端末として見ても決して悪くは無いスペックだろう。無論、DAPの範疇で考えれば現行トップクラスなのは間違い無い。
 一つ「……んんん????」と違和感を覚えそうなのは、7000mAhという大容量バッテリーを積んでるにも関わらず、再生時間がシングルエンドですら10時間止まりなトコか。ES9038Proの電流出力モードが如何に難儀なシロモノかよく分かる部分。
 ……よくよく考えると、回路設計に於ける制約がコンセント接続前提な据置用機器の比では無いポータブル機器で、敢えて電力ドカ食いするES9038Proの電流出力を「大容量バッテリーや回路に高級コンデンサ使ってフォローして」動作させるって、発想が最早脳筋と言うかぶっちゃけイイ具合にイカレてると思うんだが、そこんトコどーなんよShanlingさん?(※褒めてます

 閑話休題。
 で、購入店から届いたM7を箱出ししてびっくりしたのがそのパッケージング。別に本革とか使ってるワケじゃ無いにしても、シュリンク(ビニール)破いて先ず初めに触れる外箱はホログラムでキラッキラ、外箱から少しはみ出している内箱は合皮っぽい装丁が為されており、「成程、高級感……(苦笑」と感心するやら表現に困るやら。
 観音開きになっている内箱の、正面向かって左側にM7が収まっており、緩衝材のポリウレタン?に確り嵌り込んでいるのを抜き出して手に取ってみると、画面の面積こそスマホより小さいものの、重みはそれらを上回る感じ。重量感……!

 電源を投入してみるとバッテリーが既に八割あったので、先ずは保護フィルムの貼り替えやmicroSDの支度、Android OSの設定やUAPPを筆頭によく使うアプリのインストール等、諸々の準備をキッチリ終わらせて、愛機であるM3Xとの聴き比べを早速実行してみた。
 使用イヤフォンはすっかり我がレファレンスの座に納まって久しいSymphonium Audio Helios。勿論4.4mm接続で。

 一般的に、オーディオ機器は出口(イヤフォン・ヘッドフォン・スピーカー)から上流(アンプ・DAC・ケーブル・電源・etc...)へ向かうに従って実際の出音に与える影響が小さくなって行く、と言われる。故に、聞こえ方を大きく変えたいなら出口であるイヤフォンやヘッドフォン自体を変える事が求められ、ブラッシュアップ的な変化を求めるならアンプやDAC、ケーブル等上流への投資が必要になる。
 率直な話、DAPから据置なら兎も角、同じDAPの範疇でなら其処迄大きな変化はまあ無いだろうなー、とタカを括っていたのだが、……M3Xと聴き比べたM7の音は、そんな考えを「おめぇ馬鹿言ってんじゃねぇよ」と軽く一蹴してしまうくらいのインパクトがあった。

 M7とM3Xの音を比較して最も分かり易いのは、何と言っても低音の鳴りの違いだろう。M7の低音は非常に重厚な響き方で、何と言うか、「凄味」の様なモノを伴っている。それでいて重苦しさが其程感じられず、嫌気が無い辺りに「ぁ、やべぇコレは格が違うわ…」と思わされたっつーか。
 この辺分かり易いのは「大編成のオーケストラ」や「FiiO FD5」を聞いた時。M3Xだと前者はかな~り薄味で迫力に欠け、後者は低域の強さもとい重苦しさが目立って聞き疲れ易かった。ところがM7を使うと、前者は低域成分がもう一段下から確りどっしり響いてきて、音の広がり――所謂「音場感」を強く意識し、後者は低音に制動が効いているのか、「ズドンシャリ」と揶揄されるFD5の音で聞き疲れが起きない、という不思議な現象を体験した。
 じゃあM7は低域寄りの鳴らし方なのか、と思うだろうが、個人的にはNO。確かに低音の重厚さを先ず真っ先に強く意識したものの、その後も聴き込んでみた感じ、中域~高域についてもより骨太というか、低域に隠れる事無く「朗々と」鳴り響くので、低域寄りという印象は其程無い。それどころか、むしろM3Xに対するM7の、その駆動力の強靭さを実感させられたくらいで。
 一例として、手持ちのIEMの中では何方かと言えば中域~高域に振ったバランスの「Unique Melody 3D Terminator」について、M3Xで鳴らすと元気さを感じられる良い意味で「粗い」調子の音が、M7では粗さが抜けて解像感が一段階向上したような風情に変貌したり。それでいて元々のUM 3DTの音色を潰してはおらず、「嗚呼、上流の明確なアップグレードって、こういうものなんだなあ……」としみじみ実感してしまった。

 此処迄で「お前聴き比べにはHelios使ってたんじゃないのかよ?!」と思われそうなので、ちゃんとその辺にも言及すると、…………M7で聞くHeliosは、正に自環境に於ける最強レベルの音質を誇っていた。
 実は、M3XでHeliosを聞いていて時折「……やっぱモニターライクな音色だからか、耳の調子次第では薄く軽く聞こえる事があるなー」なんて思う事があったのだが、M7とHeliosを組み合わせると、M7の骨太で重厚な鳴らし方がその辺を上手く補ってくれて、非常にバランスの良い音を味わえるようになった。もう向かう所敵無しである。
 此処でふと思い出されたのが、Heliosを変換アダプタ嚙ませてADI-2 DAC FSに繋いで使った時の記憶。M3X使用時と異なり、低域により「力感」めいたモノを感じて「あれ、Heliosってこんなガツンと来る鳴り方してたっけ?」と首を傾げ、まあ据置だし駆動力違うもんなー、と軽く流したが、……つまりM7の駆動力は、据え置き機器に迫り得るレベルのモノを備えている、って事になるのだろうか?? いやー、まさかねー……(遠目

 駆動力繫がりで音量の取れ高について言及すると、M3XのハイゲインがM7ではローゲイン相当。と言う事は即ち、M7のミッド~ハイゲインはそれ以上の出力って事になる。一見鳴らし易そうなスペックとは裏腹に実際はむっちゃ鳴り難いHeliosだが、M3Xだとハイゲインの60~67辺りが必要だったのに対し、M7はローゲインの60そこそこ、ミッドゲインならもう少し下の50辺りで十分大音量を取れる。
 地味に感心したのはハイゲインに切り替えた際の挙動で、爆音防止の為だろうが自動で音量が10/100へ下がるようになってる模様。人によっては「面倒な、勝手な真似しよって…」なんて思うかもしれないが、個人的には難聴リスク回避の方がよっぽど大事なのでこういう気遣いは有難い限り。M7のハイゲインって900mW/32ohmもあるしね。

 此処迄「音質良し、出力強し」と流石のクオリティなM7だが、弱点が全く無い訳では無い。
 最大の弱点にして懸念点は、――――発熱。

 とかく音楽再生時の発熱量が尋常ではなく、あくまでも体感だが、最高で摂氏40度半ば迄筐体が熱くなる。M3Xは充電時なら兎も角音楽再生時の発熱はほぼ無かった事を考えると、雲泥の差と言う他無い。冬場ならホッカイロにでもなりそうな勢いと言えば想像し易いだろうか?
 尤も、初めの方で述べたメーカー公式のWeiboを読み下すに、ShanlingはES9038Proを電流出力で動かす際の電力消費や発熱量を、全て承知の上でM7を設計してるっぽいので、必要以上に怖がる必要は無いかもしれんが。でもLi-Poバッテリーの熱劣化とか大丈夫なんですかね実際問題……(一抹の不安

 その他、触って/使っていて感じた/思った事を箇条書くと、

・スナドラ665+6GB RAMの御蔭でレスポンス良好
・7000mAhと大容量な割に充電速度早め、その上低発熱
・フットプリントが一昔前のスマホ並みでDAPとしては嵩が張る
・厚みがスマホを二つ重ねたくらいあってDAPとしては嵩(ry
・体積と重量の両面でポケッタブルとは言えず、価格的に外出は怖過ぎ
・室内でのトランスポータブルデバイス、という使い方が妥当か

 総じて、ともすれば据え置きに肉薄し得る音質をよくぞこのサイズへ押し込んだな、と。自分はものぐさで貧乏性且つチキン故に、こんな「デカい・重い・高価い」と三拍子揃ったブツをとても外へ持ち出す気にはなれんが、例え自宅内限定であっても、M7とお気に入りのIEMさえあれば何処でも上質なリスニングルームと化せるのはめちゃ便利。
 先述したようにADI-2 DAC FSもバッテリー駆動させりゃトランスポータブル化出来るが、ソレは「可搬性が有る」というだけで、「携帯性」を考えるとM7の方が圧倒的にコンパクトでとても比較にならんのは言わずもがな。勿論、ADI-2 DAC FSはM7よりも更に高出力でDT1990Proの様なハイインピーダンスのオーバーヘッドモニターですら軽々ドライブさせる出力を持つが、そんなもんIEM相手には無用の長物でしか無いのですよ。(遠目
 また、そうやって考えると現在の日本円で160kオーバーという価格にも割と納得出来る。自分がADI-2 DAC FSを購入した際の価格は130k弱だったが、ADI-2 DAC FSにバッテリーをくっつけた上で体積をDAPレベルまでシェイプアップしたとすれば、そりゃ160kしたってしゃーないわな……、としか。

 本記事投稿時点でオーバー100kクラスなDAPの内、代表的と言うか入手性が安定していて余り古過ぎないモノを列挙すると、

・Sony NW-WM1AM2(150k)
・Sony NW-WM1ZM2(360k)
・FiiO M11 Plus ESS(110k)
・FiiO M17(270k)
・iBasso DX240(110k)/AMP8 MK2(27k)
・iBasso DX320(220k)
・New HiBy R6(105k)
・HiBy RS6(200k)
・Cayin N8ii(440k)
・Astell&Kern SR25 MK2(100k)
・Astell&Kern SE180 SEM1(150k)
・Astell&Kern KANN MAX(180k)
・Astell&Kern SP2000T(300k)

 ……ザッとこんなトコか。十年程前、未だポータブルオーディオの最先端が「iPodのDockケーブルからライン出力してPHPA繋いで……」なんて感じだった頃を一応知ってる身としては、何かもう市場が青天井極まっててコメントに困る状況ですねえ……(乾笑

 M7は160kオーバーもとい170kってのが厳密な価格だが、列挙したDAP達と比較してコスパに優れたモデルではないかなー。トータルバランスが一番整ってる気がする。HiBy RS6はちょっと前まで165kで売っててM7とは良いライバルだったが、恐らくは円安による価格改定で値が跳ね上がってしまったのが悲しい。
 ES9038Proを電流出力でぶん回す、という本来据え置きでやるべき真似をポータブルで強引にやっちゃった点がM7のユニークさと他に無い強みであり、一方で其処に起因するスタミナの悪さと甚大な発熱は明確な弱みである。良くも悪くも、「ES9038Proを電流出力で使っている」事をどう捉えるかがカギだろう。無論、自分は魅力を見出してM7を買ったクチだが。

 個人的見解として、Sonyは出力が貧弱且つイマドキのAndroid端末にしてはスペック不足(専らCPUと画面解像度)、Cayinはフラッグシップで超高価いN8iiの下位に構成古いN6iiしかない、ってのがネックかなー。後者については、なまじ他のメーカーがエントリー(~70k)からミッドレンジ(~200k)、ハイエンド(200k~)まで、直近のラインアップだけで確り取り揃えてる分、余計に不足が目立つ。
 更に言うと、ヘッドフォンやイヤフォン、DAPやHPAと言ったパーソナルオーディオは100kを超えた辺りから段々コスパが悪くなっていって、200kを越す頃には最早オカルトじみてくる印象。なので、機器一つ当たりの投資額は200k以内に留める方が無難。
 その前提で先程列挙したDAP達をもう一度振り返ると、M11 Plus ESS・DX240(+AMP8 MK2)・New HiBy R6・HiBy RS6・SR25 MK2・SE180(SEM1)・KANN MAX、そして今回自分がIYHしたM7が、100k~200kの価格帯(ミッドレンジ中位~上位)に於ける狙い目の機種だろう。……今になってみれば、価格改定前のRS6は相当お買い得だったかも?
 しかしSonyはAM2とZM2に何故もっとマトモなSoCとディスプレイを搭載させなかったのか……ディスプレイは辛うじて大目に見てもSoCは擁護不可過ぎる……


 やたら長くなり過ぎたが、結論としてはシンプルに「M7デカいし熱いけど音良いよ!」って次第。
 真逆自分がオーバー100kな、レファレンスクラスと言って差し支え無いレベルのDAPを手にする日が来るとは思っていなかったが、いざ使い始めると「ぁ゛ーやべぇ、コレもう戻れねぇー……(恍惚顔」とかなってんだからホント現金なもんよなあ…


 ところで、今回奮発してM7を購入したはいいが、実のところ購入後にちょっとしたトラブルに見舞われてしまい、本格的に使い込めるようになったのは購入から一週間程経ってからだったりする。……呟き帳では既に触れているが、初期不良の洗礼をモロに食らってしまったのだ。
 具体的な不良内容は省くが、最初に購入店から届いた一台目、代理店に問い合わせて交換してもらった二台目、何方にも同様の不良が確認されてしまい、ラストチャンスとなる二度目の交換――つまり三台目にしてようやっと、(現時点では)何の異常も確認されない正常なM7を手に入れるに至った。

 初っ端の起動時に不良を確認してすぐに返送した二台目はさておき、少なくとも一台目の音声出力には何の問題も無かったので、不良に目を瞑れば使えない事も無かったが…………そうは言っても、如何せん160kという(一般人目線で言えば)バカ高価いブツを購入した以上、全く異常無い完璧な個体を欲するのが普通の感覚だろう。
 幸運だったのは、Shanling製品の国内代理店である株式会社MUSINが、此方の問い合わせに対して丁寧且つ真面目に対応してくれたこと。サプライヤー側からすれば昨今は何ともやり辛かろう初期不良対応、しかも100kオーバーという高額商品で、アレ程真摯に応対してくれるとはちょっと予想出来なかった。本当に有難い限りである…


 我乍ら遂に、据え置きとポータブルの両方でレファレンス級の上流環境を持ってしまったワケだが、…………もし仮に、今後また何らかの音響機器を購入するとして、その最有力は――――GRADOになるかも。
 いやー一度は聴いてみたいのよねあの民芸品。特に最新鋭のRS1xは値上げ前の100k弱って価格が未だ続いてたらIYHしてた可能性大。メープルとヘンプとココボロのトライウッドハウジングとかワケ分かんなくて面白そうじゃん?
 ただ、同時発売されてるRS2xとの分かり易い比較が国内は元より海外サイト探しても全然見当たらないのがなー……RS1eとRS2eの関係性がx世代でも継承されてるなら、RS2xの方がGRADOのハウスサウンドに近いっぽいのだが、はてさて。

 他方、オーバーヘッドではなくIEMなら、使ってみたいのはCampfire Audioの機種。特にAndromedaとか。
 まー彼処は高級IEMの定番メーカーってイメージ強いしねー。MW10はいつぞやの安売り時に買っときゃ良かったかなあ、と実は少々後悔気味。その一方、最近発売された3BA機Holoceneが「リトルAndromeda」とか言われてて往年の雰囲気を残してるとか何とか。ほほぅ。

 国内メーカーなら、未だにビクター(JVC)のヘッドフォン・イヤフォンを使った経験無いので、何れ触れてみたいとは思ってるのよな。特にWOODシリーズ。HA-SW01とか今微妙に安くなってるけど、密閉型オーバーヘッドをこれ以上増やすのはどーなの?、と必死に自制中。
 そもそもオーバーヘッド買い足すなら開放型の高級機が欲しいのですよ。だからこそGRADOになるかも、とか言ったワケでして。Dropで往年の名機HD650(の廉価パッケージ品HD6XX)買うのも考えたが、そっちより未だ未体験のGRADOサウンドの方がそそられてしまう。

 さーてはて、次は果たして何をIYHすることになるのやら…

  

雑記

<音を「表現する」と言う事>

 音響関連の文言を記す上で、少し気を付けていることがある。
 「言葉」――もとい、音に対する「表現」である。

 よく、ヘッドフォンやイヤフォン、HPAやDACの音質を表現する際に、「解像度」「分解能」「粒立ち」「沈み込み」……といった表現を目にしたことはないだろうか?
 個人的に、「音」というモノを表現するにあたってこの辺の表現を使うのが余り好きではなく、割と意図的に特定の表現しか使わないようにしていたり。

 特に、「解像度」や「分解能」は何方かと言えば光学機器系のワードで、音響機器に此等の言葉を持ち出す事にどうにも違和感を拭えないのよなあ。「度」とか「能」とか、まるで数値的に定量化出来るかの如く自分が聞いている「音」を表すのってどうなの??、と。
 そうでなくとも、例えば「沈み込み」は低域表現として未だ分からんでもないが、「粒立ち」なんかは正直「ソレどういう感覚の事なの……??」と思ってしまうっつーか。

 じゃあお前は音を表現する際にどういう文言を持ち出してるんだという話だが、意識して繰り返し使っているフレーズで思い当たるものと言えば、

・解像感
 解像「度」ではなく「感」。所謂「音像の細かさ」ってのは定量的に評価し得る指標だの何だのが有るワケじゃ無いので、あくまでもそういう「感覚」だよ、と。
 敢えて冗長に言うなら、「キメ細かい」「鳴らし方が緻密」「隅々まで見通せる」なんて辺りが類似表現になるだろうか。「曇ったり籠もったりしていない」ってのもソレっぽいが、コレは後述する「明瞭感」とも関わってくるんじゃないかねー。

・分離感
 例えば音響機器で音楽を聞く際、多種多様な楽器が用いられる大編成のクラシックを鳴らすとして、それでも機器が再生する音は「録音された全ての音の合成音」という「一つの音波」なのが実態である。例え機器から聞こえる音が「きちんとパート毎に分かれて聞こえる」としても、それはあくまでそういう「感覚」に過ぎない。
 故に分離「感」。一つの音波の中で、元々の音楽の構成要素達をどれだけ「分け離して感じられる」か。

・音像
 音を聞いて、ソレをビジュアル的なイメージとして頭の中で変換・描写・表現したモノ……ってトコだろうか? 正直、大分色々な要素が組み合わさった表現で、結構あやふやな言い方なのは否めない。
 強いて言えば、ある意味「解像感」の類似表現。音像が細かい/粗い=解像感が高い/低い、みたいな。後述する「明瞭感」「繊細さ」にも同じ事言えるけど。

・明瞭感
 音の明るさ。何となくだが、基本的に最低域~中低域が「強い」と「暗い音」、逆に「弱い」と「明るい音」として感じる気がする。
 また、中域それ自体の強弱も関係ありそう。中域が強い=明るい、中域が弱い=暗い。音楽って中域に主旋律の帯域が集中しているので、中域の強弱は支配力強いはず。
 「音がハッキリクッキリしているか」でもいいが、こっちだと解像感的なニュアンスも含まれると思う。ハッキリクッキリした音=解像感が高く明るい音。

・繊細さ
 中域~高域の音に対して使用頻度高め。特に高域。耳を突くような刺激が少なく、上擦ったりせず綺麗に聞こえると「繊細な音 or 鳴らし方」だなー、と。解像感も関わるが、そっちよりは「刺激の有無」に左右され易い言い回し。
 対になるのは「荒さ」。刺さり気味で刺激が強い音は「荒っぽい音」に感じる。「粗い」だと逆に解像感的な意味合いが強い。粗い=荒く、解像感が低い。

・滑らかさ
 「粗い」の対義。解像感が高く、荒っぽさが少ないと「滑らかな音」。刺激の有無より解像感の方に寄せた感じの言い方。中域に対してよく使ってるかも。
 歯擦音や破裂音に由来する高域辺りの刺激は、過剰でなければ良いアクセントになる要素なので、刺さりがあるからと言って一概に荒い or 粗いとは言い切れないのが難しいところ。高域だけに左右される表現ではない=中域も関与している、と言うか。

・締まり/緩さ(タイト/ブーミー)
 低域に対して使う。個人的に低音を表現する時は「起こり(音の始まり)」と「引き(残響)」が大事だと思っていて、「締まり/緩さ」は「引き」に振ったニュアンスに感じる。
 締まりの良い、緩くない音(タイトな、ブーミーでない)音=引きに優れた(残響の収束が早い)音。大抵の場合、引きの良い低音は起こり(アタック感)の確かさもちゃんと伴っている事が多い。
 尚、「緩さ」は時折解像感(の低さ)を表す為に使うこともしばしば。詳しくは後述。

・量感
 「音の量」が多いか少ないか。「音の強弱」とは異なるのがミソ。

・丁寧さ
 対義は「雑さ」。音を音像として考えた時に、「描写が整っている」と感じる際思い浮かぶフレーズ。なので解像感が絡む、ちょっとカバー範囲の広い言い回しではある。
 具体的に解体するなら、「繊細さ」と「滑らかさ」、ついでに「締まり」の合成表現、的な。刺激が少なく、解像感高めで荒くなく、更に締まりのある適度な低音まで揃っていると、「丁寧な音 or 鳴らし方」って評価になる、っつーか。必然、帯域バランスの整った音が当て嵌まり易い。
 ただ、何方かと言えば中域~高域に対して関連度強め。つまり概ね「繊細で滑らか」だと「丁寧」に感じている、気がする。

・緩さ/鈍さ
 「解像感」の類義。それも専ら「解像感の低さ」を表すという変わり種。
 「鈍い」はネガティブな意味合いが強いのに対し、「緩い」は何方かと言えばポジティブ。解像感が弱みになっていない面白みがあれば「緩い」、完全に解像感の低さが足を引っ張っているようなら「鈍い」ってイメージ。

・質感
 単純な大小多少強弱明暗ではなく、包括的な音の「性質」。「鳴り方の傾向」と言い換えても良いかも。

・音場感
 …………巷でよく引き合いに出される文言だが、実は個人的に一番苦手な表現。ぶっちゃけ未だにサッパリ理解不能な感覚の一つ。ヘッドフォンですら基本的に、何だかんだ耳の傍らで鳴ってるようにしか感じられないというのに、況んや外耳孔にブッ挿して使うIEMをば、と言うね……
 まあそれでも、最近だとHelios宜しく「オーバーヘッドヘッドフォンめいて、音像を少し引いた所から捉えるような」なんて感じ方をすることもあるので、全く分かってないワケじゃないと思いたい、が……(遠目


 一頻りざっと書き出してみたが、…………コレ正直な話お前も似たり寄ったりじゃね??、的な……(引攣笑
 でも音の善し悪しって定量化出来ないもんなー。なるべく感じたままを言語化しようとして、自分の場合はこーゆー語彙に収束していってしまった、としか言い様無いのよねえ…

 しかし改めて普段直感的に使っている表現を分析してみると、めっちゃ意味にダブりが多くて草生えますよ!(伏目
 もう大体解像感ばっかな辺りに、我乍ら何を重視してオーディオを楽しんでるかがよく表れてますなあ…


 ……実際の所、雑感を書き連ねている時は完全にフィーリングで此等の表現をテキトーに使いまくっているので、上述の文言が本当に今回說明した通りに使われているとは限りません!(平謝
 故に「お前この言葉の使い方こないだの説明と食い違ってんじゃねーか!?」という至極尤もなツッコミは、出来れば切に御容赦頂けると助かります……(DOGEZA



<手持ちの主要IEM聴き比べ>

 30k以上する(一般人目線的に)かなりお高価いIEMが矢鱈増えてしまった今日此頃。
 折角なので、此処等で一度主要機を一挙に聴き比べてみようかと。

 クランケは以下の通り。

・DUNU Studio SA6:3way6BA(Low2,Mid2,High2)
・Unique Melody 3D Terminator:2way3DD(Low2,Mid/High1)
・FiiO FD5:1DD
・Thieaudio Oracle:3wayTribrid(Low1DD,Mid2BA,High2EST)
・CHIKYU-SEKAI[地球世界] 5/COSMOS:3way5BA(Low2,Mid/High2,UltraHigh1)
・Symphonium Audio Helios:4way4BA
・RAPTGO HOOK-X:Planner Magnetic+Piezoelectric

 再生機器はShanling M3X。出力は4.4mm。UM 3DTと5/COSMOSは純正ケーブルが3.5mmなのでリケ済。

・Helios
【イヤーピース:デフォルト(AZLA SednaEarfit Mサイズ), ケーブル:デフォルト】
 「解像感の暴力」という一言が思い浮かぶ鳴りっぷり。個人的に、若干引いたような音場感も相俟ってイヤフォンというよりオーバーヘッドのモニターヘッドフォンを聞いているような感覚に陥る。
 音がハッキリクッキリしている、って意味で非常に明瞭。兎に角滑らかで丁寧。上から下まで万遍無くバランス良く鳴る。大音量でも高音が刺さらず繊細で、低音が暑苦しくなく締まっていて、その上中域が出しゃばらない。優等生過ぎ。正にレファレンス。
 オーバーヘッドモニターをレファレンスとしている身からすれば、好みドンピシャで特にケチ付けるトコ思い付かん音だが、強いて言えば「味付けらしい味付けが余り無い」事が人によってはダメかも? 素っ気無いと言うか、無味乾燥と言うか、そういうマイナスイメージを持つ人いるやもしれんし。
 一見簡単に駆動出来そうなカタログスペックとは裏腹に、バランス出力でも結構ボリューム上げないと本領発揮しないので注意。M3Xの4.4mmバランスでハイゲインの60まで上げさせられたのは此奴が初めてである。

・Oracle
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:デフォルト】
 解像感は今回比較した機種の中だとHeliosに次ぐレベル。Heliosがモニターに振り切った音なら、Oracleはモニターでもちょっとリスニングに寄せたタイプの音。
 明瞭でバランスの良い鳴り方だが、Heliosよりも高域がやや細くシャリ付く他、中低域にもう少し量感があって「味付け」っぽいモノを感じる。音場感は普通。そこそこ鳴り辛いがHelios程ではない。
 Heliosに対する明確なアドバンテージは装着感。外耳孔周辺にちゃんと沿ってくれるので安定感が全然違う。

・5/COSMOS
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:KBEAR Limpid Pro KBX4913】
 モニター的な中庸さを感じさせるHelios・Oracleと比較して、明らかに独自路線を突っ走っている。透明感ある見た目からは想像し難い音色に面食らう事請け合い。
 解像感は良好で、中域の滑らかさも中々のもの。他方、高域が些か控えめ且つ中域より下の量感が少々多く、全体的に鳴りが低めで重め。幸い、低域に中域~高域がマスクされているような感覚は無い。
 シェルはコンパクトに纏まっており装着感はそこそこ。音圧が非常に稼ぎ易く、M3Xの4.4mmバランス出力ならローゲインの33辺りで十分大音量。109dB/7.7ohmという高能率低抵抗な設計の賜物だが、一方でリケーブルにより音が変わり易い可能性が高い。それがマルチBA機ならではの不安定なインピーダンス特性によるものどうかは定かで無いが、少なくとも付属ケーブルと同じ純銀線のKBX4913より、銅線主体であるNICEHCK SpaceCloud(単結晶銅と銀メッキ銅のミックス)の方が、鳴りの低さや重さが緩和されるような感覚があった。

・SA6
【イヤーピース:SpinFit CP145 Mサイズ, ケーブル:デフォルト】
【音質変更スイッチ:OFF】
 中域より上がやや粗く、低域の量感が僅かに少ない。5/COSMOSとは逆に高めで軽め。明るい鳴り方で中域が目立つので、ボーカルや主旋律(を担当する楽器)にフォーカスを定めて聴き込むなら最適。

【音質変更スイッチ:ON】
 中域〜高域の質感はほぼそのままに低域の量感が増し、鳴り方が落ち着いて「今時の、低域が確り鳴るモニター」的バランスへ変化。汎用性を取るなら此方。

 「普段のリスニング位置から音量を徐々に上げていって、最初に気に障り始めた部分がその機器の弱点」とはある有名レビュアーの談だが、それで言えばHeliosはほぼ気になる部分が無く、Oracleは高域の細いシャリ付き、5/COSMOSは中域以下の量感がそれぞれ気になり易いのに対し、SA6で真っ先に引っ掛かるのは高域の荒っぽさ(OFF)/低域の量感(ON)。
 総合的な解像感はそこそこ。スイッチ位置問わず明瞭感が優秀。CIEMライクなシルエットだが装着感はOracleに劣る。音量の取れ易さは程々。

・UM 3DT
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:NICEHCK Oalloy】
 2way3DDという変態構成から低域マシマシな音を想定したら大間違い。むしろフラットに近い真っ当なバランスで、下手すりゃモニター的かも。
 粗さはあるがあまり荒っぽくはなく、雑でなく「元気」と思わせる鳴りっぷり。異論を承知で形容するなら「解像感を落とす代わりに潑溂さを与えたHelios」って感じ。DDならではの力感――空気を「叩く」感覚や、嫌気を覚えない程度の刺激が好ましい。
 感度はSA6と同程度。SA6よりも耳を突かないので音量を上げ易い。パッと見、結構嵩が張っているシェルは実際に装着してみると外耳孔周辺への収まりが良く、安定性高め。流石はカスタムIEMの老舗。

・FiiO FD5
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:KBEAR Limpid Pro KBX4913】
 「ズドンシャリ」。純銀線にリケして多少マシになったはずだがそれでも未だに低域の主張がすっごい。正にベースヘッズ御用達ホン。
 面白いのは低音の量感が凄い故に全体として低く重~い鳴りであるにも関わらず、中域~高域が埋もれてなくて解像感がちゃんと在ること。流石のハイレゾ世代と言うか。
 ベリリウムコーティングしたDLC振動板使ってるだけあって、中域〜高域はレスポンスの良い音を鳴らす。低域も締まりの無い音ではなく、基本的には重厚で良質。ただその重厚感のせいでかなり聞き疲れ易い。普段モニター的なバランスを尊んでる身としてはやはり低域過剰気味。
 筐体はクロムメッキされたステンレスで重量感たっぷり。傷付きやすいので取り扱い注意。装着感は普通。悪くは無い。5/COSMOS程では無いが小音量でも十分な音圧を確保可。

・RAPTGO HOOK-X
【イヤーピース:付属黒軸Mサイズ(SpinFitの亜種?), ケーブル:デフォルト】
 平面駆動にピエゾも積んでしかも開放型、とイロモノまっしぐらな変態機。音作りもまさに奇特――なブツを期待していると肩透かし食らう可能性アリ。
 ちょっと低域寄りな鳴らし方でバランスは5/COSMOSやFD5に近い。しかし開放型故に低音の圧迫感が薄く、量感の豊かさと負担の少なさを両立しているのは巧い。加えてピエゾドライバの効果で高域に僅かだが粗く刺激があり、少々引っ込んだ中域と合わさって独特な音色を作っている。断じてモニター的では無いが、意外にも分離感に優れていて構成要素の聞き分けが容易。
 率直な話解像感は甘めで、明瞭感は普通。繊細さや滑らかさ、丁寧さも其程。だが不思議と聞き易く、それでいて退屈では無いという中々聞いた事の無い音。ユニークだがエキセントリックではなく、派手さは無くて良い意味で地味。
 何気に装着感が優秀。挿し込みは比較的浅いが外耳孔周辺への収まりが良い。傾向は全然違うがボリュームの取れ具合と上げ易さがUM 3DTとよく似ている。


・解像感ランキング
 Helios>>Oracle>5/COSMOS>SA6>UM 3DT≧FD5>HOOK-X

・装着感ランキング
 Oracle=UM 3DT>HOOK-X>SA6=5/COSMOS>FD5>Helios

・帯域バランス分布
【高域寄り】SA6(スイッチOFF)>UM 3DT>Helios(ほぼ【フラット】)>Oracle>SA6(スイッチON)>5/COSMOS>HOOK-X>FD5【低域寄り】

・個人的好み度
 Helios>>>UM 3DT≧HOOK-X>Oracle≧SA6>5/COSMOS>FD5


 ――と、一通り聴き比べた所感が以上の通り。
 Heliosがレファレンスになっているのは最早言う迄も無い。

 最後にランキングやら分布やらで順番付けしてみたのを改めて眺めてみると、レファレンスたるHeliosはさておき、解像感やバランスのフラットさと、好み加減がサッパリ一致しないのが我が事ながら何とも面白いねえ、と。
 潑溂として元気なUM 3DTと、解像感甘いけど色々と面白味の多いHOOK-Xが好み上位に来てる辺り、ヘンテコな構成が好きになりやすいんかしらん自分? でもこの二機種って嫌な耳の突き方してこないから滅法聞き易いんよな…

 にしても、以前はSA6やOracleがレファレンスだったハズがあまりにも感想変わり過ぎてて一体全体何が起きたん????、みたいな。いやどー考えてもHeliosのせいなんだけどね…
 約120kを奮発した価値はあったと言うか、Heliosの前ではSA6やOracleですら「モニターないしはフラットバランスになりきれていない」と感じてしまうのは、価格差って残酷……としか言い様が有りんせんのを如何せん。(ぇ
 逆にUM 3DTが急浮上して、更に更に、新参中の新参であるHOOK-Xに好感触覚えちゃうのだから、「レファレンス」の更新ってのは効果デカいなー。音色とか質感とかって大事。



※追記:5/COSMOSのリケーブルによる鳴り方の変化

 今回の記事を公開する前に呟き帳で既に言及しているが、5/COSMOSにAliから仕入れた「NICEHCK CoaxialSir」(※6N 銀箔メッキ単結晶銅線と銀メッキ線を同軸リッツ構造で束ねたミックス線)を挿してみた所、低域寄りで低く重めだった鳴り方がかなり変わった。
 具体的には、ともすれば引っ込み気味だった中域~高域が前に出てきて、ハッキリ響くようになった。相対的に低域が大人しくなり、Limpid Pro KBX4913使用時の音よりもバランスが良くなる、という個人的に好ましい変化を得られた。全体的な明瞭感が明らかに増しており、一段階上の音になっている……気がする。

 正直、CoaxialSir使用時の音であれば上述の帯域バランス分布と好み度の並びが変わってくる。それこそ「Oracleの解像感と低音の量感、SA6の明瞭感を良いトコ取りした」音に近い風情なので、この状態の5/COSMOSなら手持ちでもトップクラスに躍り出かねない。
 いやまあそれでもHeliosとタメ張れるレベルってワケじゃないが……アイツは流石に例外過ぎ。解像感のバケモノ。

 ってなワケでランキング改定。此方↓。

・解像感ランキング
 Helios>>Oracle≧5/COSMOS(with CoaxialSir)>SA6>UM 3DT≧FD5>HOOK-X

・帯域バランス分布
【高域寄り】SA6(スイッチOFF)>UM 3DT>Helios(ほぼ【フラット】)>Oracle>5/COSMOS(with CoaxialSir)≧SA6(スイッチON)>HOOK-X>FD5【低域寄り】

・個人的好み度
 Helios>>>5/COSMOS(with CoaxialSir)≧UM 3DT≧HOOK-X>Oracle≧SA6>FD5

 元々SA6よりも解像感優れてるっぽいのが、CoaxialSirによって低域寄りのバランスを改められた事でOracleに匹敵するレベルまで引き上げられ、随分と聞き心地の良い音を鳴らすように。シャリ付かない高域、明瞭な中域、量感はあれど緩さはない低域、と三拍子揃っていて大変宜しい限り。
 難点はCoaxialSirの取り回し難さ。針金みたいな硬さこそ無いが、とかくコシが強くびょんびょん跳ねるのが厄介。

 因みに5/COSMOS+SpaceCloudもCoaxialSirと似た変化を得られるが、多分後者の方が変化の度合い強め。CoaxialSirは一聴して「ぇ、ちょっと待って何か全然違う…」とびっくりさせられたが、SpaceCloudは其処迄の驚きを得られなかったし。
 SpaceCloudは本体とケーブルで色味が比較的揃うのと、取り回しが未だ悪くないのがメリットか。ま、私的には5/COSMOS with CoaxialSirの見た目気に入ってるけどねー。NICEHCK製品にしてはプラグのデザインが凝っていて全体の質感は概ね良好なんで。

2022/07/21

お買い物々色々雑感

 折角開設した呟き帳が、音響等趣味ネタよりも最近衝撃を受けたとあるトピックに絶賛侵食されまくっているというヲチ。
 いやしゃーないねんあんなん、まさかアレの話題がこんな昨今の国内を騒がすとは思っとらんかったんやて…

 前々回、呟き帳開設のお知らせを挙げた際に、最早恒例行事と成り果てている衝動買いで「CHIKYU-SEKAI[地球世界] 5/COSMOS」と「Symphonium Audio Helios」の二つのIEMを仕入れた事に触れたが、……………………まっことアホな事に、あの後更にもう一つIEMを購入してしまったり。「RAPTGO HOOK-X」である。
 つまり、この短期間に三機種も(一般人目線で言えば)高級イヤフォンを買い漁っているワケで。………………………………まあ、完全に病気ですねえ…………(引攣笑
 既に呟き帳でごく簡単にその音について触れているHOOK-Xだが、使っていて結構面白い機種なんで、ちょっと確り目に文章連ねてみようかと。

 ――で。
 折角の機会だし、この際併せて、

同じく未だ呟き帳でサラッと触れただけの5/COSMOS
ドッと増えた高級機達に見合う物を、と仕入れた少々お高いイヤフォンケース

 更にも一つおまけに、

今年度に個人輸入して現在メイン運用している中華タフネススマホ

 ――と、年度内の購入物を纏めて雑に御紹介する所存。
 ……財布の紐を締めるどころか一層ガバガバになってるって? アーアーキコエナーイ(現実逃避


<イヤフォン雑感:CHIKYU-SEKAI[地球世界] 5/COSMOS>

 去年一昨年から散々衝動買いIYHを繰り返して、その度にもうコレ以上は止めておこうと自戒しているにも関わらず、ユニークな新製品やら評判の良い定番機やらをボーっとネット上でウィンドウショッピングしてしまうのが最早日常と化しているワケだが、5/COSMOSはそんな折に見付けたIEMである。単純に、清流を思わせるその透き通った見た目に惚れてしまい、思わずポチッとな。
 その頃は丁度、未だ始まって間も無いHeliosのプロモーションイベント割引に乗っかるか否か悩んでいた時で、しかも偶々偶然、密林で50k未満まで値下がりしていたもんだから、「……Heliosの、円で100k超って値よりは安い、安い!」とか要らん事考えちゃったのがダメだった。冷静に考えれば「いやナニ言ってんのお前??」って話でしかない。(乾笑
 そも、「てかその後結局Heliosも買っちまってんじゃねーか!?」と言うね……(遠目



 さて5/COSMOSだが、既に呟き帳で触れているように、実は中域以下が想像以上に確り鳴るタイプのIEMだったり。見た目だけだと中域以上にフォーカス置いたスッキリサッパリサウンドを予想し易いが、割と逆の傾向故に注意。
 ただ、中域以上が曇ってる籠もってると言う事は決して無く、むしろ解像感高く明瞭に鳴らしてくれる。まあ中域以下が強いのは、ロックとか掛けるとベースなんかの量感が凄くてびっくりする一方、ジャズやクラシックなら重厚感を演出してくれもするし、ぶっちゃけ曲次第だろう。

 筺体は軽量で小振り。DUNU Studio SA6Thieaudio Oracle程ではないがそこそこ外耳孔周辺に沿った形状をしており、適切なイヤピを使用すれば装着感は問題無い筈。一点、ノズルにイヤピ保持用の引っ掛かりが無いのには気を付けるべし。
 付属ケーブルは3.5mmプラグの純銀線。バランス接続したいならリケ必須。自分は当初、ストックしてあるNICEHCK SpaceCloudを使っていたが、どうせなら線材を付属と揃えようと思い、FD5で愛用しているKBEAR Limpid Pro KBX4913の4.4mm2pin仕様を追加購入して使用中。しかしどうやらSpaceCloudを使う方が鳴りにメリハリは出るっぽく、全体的に音を引き締めたいなら銀線は非推奨かも。

 5/COSMOSの後に購入したHeliosは非常にモニター(ヘッドフォン)ライクな音だったが、アレと比較した場合5/COSMOSはかなりリスニング寄り。手持ちの同価格帯ならOracleやSA6の方が未だなんぼかモニター的。5/COSMOSは低音の量感がDDを積むハイブリッド機のOracle以上でちと過剰。
 一応、中域〜高域の質感自体は明瞭かつ繊細で解像感も高いので、低域が控え目な曲を選べばシェルの透明感を彷彿とさせる音を味わえるが……手持ちだと5/COSMOS以上に低域が強いと感じる機種がFD5くらいなもので、フルBAだの見た目だのと言った前情報と余りに裏腹なバランスに少々困惑気味。
 上述したが、何故か純銀線よりもSpaceCloudのような銅線の方がメリハリが効いてむしろ低音の過剰感が薄れるので、付属ケーブルもとい純銀線の音に首を傾げるならリケを強く薦める。インピーダンス特性が複雑な多ドラ構成、かつ非常に高能率低抵抗(109dB/7.7ohm)な機種なので、ケーブルに影響を受けやすいのだろうか……?

 ――と、此処迄随分と5/COSMOSをディスってしまったが、その実そんな気に入って無いワケじゃ無かったりする。
 と言うのも、先程引き合いに出した手持ちの同価格帯であるOracleとSA6に対して、5/COSMOSには「Oracleの、ESTに由来?する高域の目立つシャリ付きが無い」「SA6の、中域以上に感じられる鳴りの粗っぽさと、低域の薄さが無い」というアドバンテージがある故。それでいてBA機らしいキメ細かさも備わっている為、ホントは割と気に入っていたりするんだなーコレが。

 ケチ付けたいのかそうじゃないのかよく分からん調子になってしまったが、とどのつまり「正直意外だったけど速攻売り飛ばす程悪くは決して思ってない」ってトコ。何だかんだ言って直近の機種なだけあり解像感もといHi-Fi感、或いはハイレゾ感はあるし、フルBA機ながらハイブリッド型やDD機に匹敵する低音を鳴らせる、ってのはやっぱ優秀。
 ミドルクラス(¥50k前後辺り?)でイヤフォンを探しているなら、購入候補に入れる価値は十分あるかと。中域~高域の明瞭感と、低域の量感を両立させたいなら良い選択じゃないかねー。


<イヤフォン雑感:RAPTGO HOOK-X>

 つい先日(22/07/08)発売されたばかりの、「14.2㎜平面駆動ドライバ+18レイヤー(両面9層?)圧電(PZT)ドライバ+オープンバック(開放型)」という、全く聞いた事の無い非常にユニークな構成の機種。
 どうやら此処最近、平面駆動型IEM、それもアンダー40kの比較的リーズナブルな価格帯の製品が中国メーカーから色々と発売されてるようで、HOOK-Xはその中でも構成の独自性が一際目立つシロモノ。

 恐らく、このカテゴリの先駆者は昨年八月に発表された「7Hz Timeless」だろう。平面駆動型イヤフォン自体は米国AUDEZEがiSINEシリーズをとうの昔に発売しているが、外耳孔周辺に収まるサイズのIEMで平面駆動ドライバを積み、その上でドライバーサイズが14㎜クラスというモノは、自分が知る限りではTimelessが最初だったハズ。
 そして現在、「TINHIFI P1 Max」や「MUSE HiFi POWER」、「LETSHUOER S12」、「TRN Kirin」等、14㎜クラスの大型平面駆動ドライバを載せた機種が矢継早に発売されている。HOOK-Xは此等の中でも最も高価、また最も構成が特殊って事で、……ついついうっかりIYH欲を抑え切れなかった次第。(煤笑


 受領して先ず驚かされたのはパッケージングの丁寧さ。モジュラープラグは2.5/3.5/4.4㎜端子の全てに保護キャップを被せてあり、箱の造りや感触も凝っている。イヤピが豊富に付属するのもポイント高め。
 以前SA6を手に取った時も思ったが、「中国製品は安かろう悪かろう」なんて時代はもう終わったのだな……と、つい黄昏てしまったり。

 呟き帳でも既に触れたが、事前に海外レビューをありったけ読み込んで「解像感に振った鳴り方ではない」事は承知済だった。それでも、実際にその音を聞いてみるとマジにその通りで思わず苦笑。
 解像感の暴力めいた容赦無いモニターサウンドを展開するHeliosや、低音の量感こそ豊かだが上から下まで緩くは鳴らさない5/COSMOS等、直近に解像感が確かな機種を使っていたからこそ、それは一層よーく分かった。特にHeliosはあからさまに解像感が違い過ぎて、このくらい差ァありゃオーディオに興味無い人でも絶対分かるだろうなー…、なんて。

 ではHOOK-Xは曇ってたり籠ってたりする悪い意味で鈍い音なのかというと、断じて否。
 むしろかなり面白いというか、一聴しただけでは良さが分かり難く、じっくり長く聞き込み使い込む事でその強みを理解出来る、スルメめいたイヤフォンだろう。

 解像感こそ確かに特別高くはないHOOK-Xだが、意外な事に分離感が滅法優秀で、音楽の構成要素を想像以上にきっちりバラしてくる。加えて圧電ドライバ、またの呼び名をピエゾドライバの効果か、高域にOracle(のESTドライバ由来?)のシャリ付きにも似たザラつきを感じられ、解像感を抑えた緩めの鳴り方の中に適度な刺激を伴った、何ともユニークな音像を体験出来る。
 また、crinacle等で周波数特性を見ると低域の出方が中々強そうに見えるが、実際は確かに量感こそあれど、圧が適度に抜けた聞き易い響き方をしている。グラフ上では何とFD5と同レベルの強さで、向こうは「ズドンシャリ」という形容に違わぬ重い低音が聞き疲れを招き易いのに対し、HOOK-Xは長時間でも問題無く聞き流せる。構造上抜けが良く圧を逃がし易い、開放型ならではの利点と言えよう。
 更に、シェルの形状が絶妙で外耳孔周辺への収まりが頗る良好。この「抑え目な解像感+開放型故の負担の少なさ+優秀な装着感」という三点の相乗効果により、長時間の聞き流しが大変快適。原音というより、良質なスピーカーからフロアに流れているBGMをながら聞きしているような、そんな感覚でリスニングを楽しめる。

 ――と、此処迄結構べた褒めだが、流石に(一般人目線で)高級イヤフォン入門初っ端の一本にHOOK-Xを選ぶのはオススメしない。
 何故なら、本機は「開放型」である。そりゃもうフツーに音が漏れまくる。開放型ヘッドフォンよろしくスピーカーもかくや、って程では無いが、それでもガッツリ音漏れするので基本的に屋内や、周辺に人の居ない環境下での使用が推奨される。
 彼方此方狭っこく他人との物理的距離を取り辛い日本では、こーゆータイプの音響機器は大っぴらに使えるシーンが限られてしまう。通常、イヤフォンによるリスニングは屋内より屋外がメインのハズで、それを踏まえるとHOOK-Xは「イヤフォンの癖に外で使い辛い」という、随分ニッチでマニアックな製品なのだ。

 それにまあ、イヤフォン沼の最初の一本なら、もっと安直にハイファイ的というか、所謂高解像度やフラットバランスを評価されている機種の方が良かろうよ。Moondrop[水月雨]のBlessing2やKATOとか、最近のだとSoftearsのVolume辺りも良いんじゃないかねー。
(何気に国内・欧米メーカーから30k前後のIEMが全然出てなくて、殆ど中国メーカーばっかになってるのが切ないっつーか…)
 HOOK-Xは自分のようにIEMを複数持っている酔狂な人間が、その風変わりな構成に興味を覚えてポチり、その聞き易く整った鳴り方に感心しサブ機の常用枠に据えて、専ら自宅でのトランスポータブルリスニングに駆り出すような、そんなイヤフォンではなかろうか…、なんつって。

 一点、HOOK-Xを取扱う時に注意したいのが「ケーブルが布巻である」事。
 別にHOOK-Xに限った話じゃないが、布巻シースは「ベルクロに滅茶苦茶引っ掛かり易い」。そして一度引っ掛かってしまうとそこから簡単に解れていってしまう。後述するイヤフォンケース等、中の仕切りにベルクロ使ってるトコへHOOK-Xもとい布巻ケーブルを仕舞う時は要注意。マジで絶対注意。


<イヤフォンケース雑感:MITER キャリングケース>

 昨年にSA6を購入してからというもの、我乍ら高級IEMが怒涛の勢いで増えている。

・DUNU Studio SA6
・Unique Melody 3D Terminator
・FiiO FD5
・Thieaudio Oracle
・CHIKYU-SEKAI[地球世界] 5/COSMOS
・Symphonium Audio Helios
・RAPTGO HOOK-X

 ……いや幾ら何でも増えすぎだろ!?
 つーかコレ合計額なんぼ――――ぇ゛、30万オーバー? つーか40万が危ういって??
 う、うごご…………(悶絶

 …………懐が加速度的に貧しくなっている事にはこの際目を瞑るとして、問題は「収納」である。イヤフォンそのものの。
 基本、どの機種にもイヤフォンケースやポーチの類が付属しているっちゃいるが、モノによっては到底使い難い場合がままあり、都度個別にケースを購入するのもぶっちゃけ辛気臭い。
 そこで複数機を纏めていっぺんに収納出来る、大型のキャリングケースの購入を決断。今回紹介する、韓国メーカーMITERのケースに行き着いた。武蔵野レーベルという国内ブランドにも同様の製品があり、そっちの方が少し多機能だったが、今回は洒落っ気を採ってMITERのモノを御買上げ。


 手に取ってみた感じ、成程確かに確りした造り。外側の合皮、内側の起毛素材(スエード)、何方も質感良好。
 付属する大小合計五つのパーティションを全て使う事で、収納スペースを最大六分割でき、自分は六分割した上で上述の七機の内FD5とUM 3DTを除く五機を収納することにした。FD5とUM 3DTは付属ケースが優秀なのでこっちに入れる必要は無かろう、と。

 単なるイヤフォン用キャリングケース如きに7kも出すのはそこそこ抵抗感あったが、しかし1.2kくらいするハードケースをIEMの数だけ購入してもそんな値が変わらないのよなー。だったらこっちの方が見た目スマートかねえ、と奮発してみたが、実際狙い通りになったので概ね満足。磁石で閉じられたフリップを開けて、パーティションで区切られた中からIEMを取り出す様は、宛らジュエリーボックスのよう。
 ……と言うかコレやってる事完全にジュエリーボックスの拡張版である。まあ自分が仕舞ってるIEMの値を考えると最早ちょっとしたジュエリーじみてもいるし、こんなもんかもしれぬ…

 注意点は「布巻ケーブル」を仕舞う時。パーティションの末端にはベルクロが貼ってあり、此奴がケース内側の起毛素材を噛む事で位置を固定する仕組みだが、HOOK-Xの項で触れたように、布巻シースを採用するケーブルはシースがベルクロに滅茶苦茶引っ掛かり易い。
 引っ掛かりが浅ければ軽傷で済むが、深々と噛んでしまった場合ほぼ確実にシースがほつれてしまう為、布巻ケーブルを収納するならケースへ入れる前に薄袋へ突っ込む等、ワンクッション置かないと危険。自分は家族に裁縫が得意な人間が居るので、イヤフォン用に小さめの巾着袋を縫ってもらい、HOOK-Xはそれに入れてから仕舞うようにしている。


<タフネススマホ雑感:UMIDIGI BISON GT2 Pro 5G>

 日々持ち歩く通話主体のメイン機として、長らくHUAWEI P10 Liteというスマホを運用してきた。だが如何せんそこそこ古い上に、元々ロースペック帯の機種なので、近頃は動作のもたつきや経年によるスタミナの減少にやきもきするようになっていた。
 サブ機であるXiaomi Pocophone F1をメイン機へ繰上する事も考えたが、かつてそのスペック(とコスパ)に驚いたPocophoneも、最早現行のミドルスペックにすら敵わないくらいで一時凌ぎにしかならんのは確実。……だったら、いっそ新機種買っちゃうか!、と久々の携帯購入を決意した次第。

 その上で、前々から興味があったタフネススマホを今回は仕入れてみよう、と。
 そもそも頑丈に作ってあるのでケース・ジャケット要らず、完全防水で丸洗いもへっちゃらなタフネススマホは、コロナ禍が始まってからというもの、スマホの清掃に余念が無い我が身にとって是非共手に入れたいガジェットだった。流水で濯げばキレイに出来るなんてお手軽で最高じゃん?
 専ら中国メーカーが群雄割拠しているタフネススマホ市場だが、今回はその中でもスペックを最重視して、SoCにMediaTek Dimensity 900というかなりハイスペックなものを積んだ「UMIDIGI BISON GT2 Pro 5G」をチョイスした。

 ……さて。
 自分はBISON GT2を発売解禁日当日(22/02/21)にAliexpressで注文したのだが、…………間の悪い事に、丁度その頃の中国は新型コロナ感染者の発生によるロックダウン等で大いに混乱中。同時期に注文したBISON GT2の発送は、ド派手にその煽りを食うハメになってしまった。

 具体的に言うと――――――――到着まで三ヶ月掛かった

 いやあ、流石に三ヶ月はちと長かった…………正直待ち草臥れた…………
 ……まあその御蔭で得もしたけど、それについては後述。

 やっとこさ受領したBISON GT2。かれこれ二ヶ月間メイン機として運用しているが、タフネススマホの中でもかなりスペックに振った仕様は伊達じゃなく、中々快適。アズレン程度の負荷なら全く問題無し。
 尤も、受領直後のバージョンは結構不具合が多く、数回のアプデを経てようやく安定した感じ。直近の22/07/15にメジャーアップデートが来てOSがAndroid 11から12に更新され、現在様変わりしたUIに苦戦しつつ安定性を様子見中。

 肝心の「タフネス」についてだが、……いやあ正直びっくり。ホントにどんだけ水ブッ掛けても平気で笑ってしまった。洗う時にハンドソープ使っても全然問題無し。水没させても無問題。米軍事規格MIL-STD-810GとIP68/IP69Kの防水防塵性能への適合はガチガチのガチだった。
 中華タフネス、凄ぇ。

 気に掛かる点があるとすれば、やはりアプデ前の動作の不安定さか。初っ端は温度計機能が使えず、またアプデしても未だイマイチな部分(タスクマネージャーが不安定、時折画面がブラックアウトする)がちょいちょいあり、こういうトコがクオリティよりもコストを採ってる中国製品らしいなあ、とか。

 …………だが、例えちょっとした不具合があろうとも、端末が完全にタダで手に入ってしまったなら文句等あろうはずも無い。
 は??、と思うだろうが、実は自分、このUMIDIGI BISON GT2 Pro 5Gを無料で入手してしまっている。正確に言えば注文時に一度きちんと代金は支払っているのだが、とある理由によりその支払分が全額返金されてしまった。
 その上で商品は確り届いているので、つまり全額タダ。実質もクソも無く、ガチの無料で、スマホを一台手に入れてしまったのだ……!

 何故そんなことになってしまったのか??という話だが、その実、Aliexpressやセラー(UMIDIGI公式ストア)からこの件について何も説明されていないので、詳細は不明。取り合えず分かっている事を一通り書こうと思う。
 先ず大前提として、Aliexpressでの注文には30日(一ヶ月)と60日(二ヶ月)で区切りがあり、セラーは注文から30日迄に商品を発送、注文から60日迄に商品を到着させなければならない模様。それが出来ない場合、注文者に代金が全額返金される――というのが基本的なシステムっぽい。

 んで今回注文したBISON GT2だが、発送処理自体は30日が経過するまでに取り敢えず為されたものの、何故か後日その発送が中断されてしまい、メーカーが再度商品を発送し直すというトラブルが起きた。
 問題は此処からで、どうやらセラー側が「商品の再発送を今回の注文に対して再登録しなかった」らしく、結果として今回の注文は「発送が中断されたまま、注文から60日が経過してタイムアウト」という扱いになってしまった。その為注文時の支払金額が全額返金されたにも関わらず、商品自体は再発送で無事届き、しかしその再発送は注文に含まれない為、代金は請求されない――という、何が何だかよく分からない、摩訶不思議な事態が起きてしまった。
 商品が到着するよりもそこそこ前に返金処理の完了を確認したので、ブツが届くまで「ま、まあ万が一届かなかったとしても金銭的損失は全く無いし……(困惑」なんてわけわかめな心境でいたワケだが、…………長年通販使ってるがこんなケース初めてだよ! 果たしてどうリアクションすりゃいいかサッパリだよ!(遠目

 そんなこんなで、最新型のスマホを期せずしてガチのタダで入手してしまった次第。
 そりゃ確かに三ヶ月も待たされたけどさ、幾ら何でも40k近い額が完全無料ってお前…………状況が状況だからとても素直に喜べんっちゅーねん。

 ……取り敢えず、二言だけ。
 「有難う、Aliexpress。そしてごめんね、UMIDIGI。(土下座」



 以上、本年度の上半期お買い物報告集でした。
 ……ま、どーせ今後も音響機器を中心にIYHは繰り返すと思うので、その都度呟き帳か徒然帳のどっちかにぼちぼち書き込んでいく所存。
 さてはて、次の衝動買いは一体どんな代物になることやら……(吹っ切れた瞳