2020/11/02

ヘッドフォン色々雑感

 かれこれ二ヶ月近くも前に注文したDT1990PROと、密閉型オーバーヘッドを二機種売却した穴埋めとしてうっかり衝動買いしてしまったATH-WP900が、まるで示し合わせたかの如くほぼ同時に届いたので、二つ纏めてファーストインプレッションをば。
 尚、先に届いたのはWP900で、その翌日にDT1990PROが到着した。……ヘッドフォン環境が一気に豪勢になっちゃってまあ……(苦笑

 鳴らしにはXD-05 Plus(with MUSES03*2)とADI-2 DAC FSの両方を使用。クオリティ考えたらADI-2 DAC FSだけで十分じゃないの?、と思わなくもないが、05BL Pro使用時のXD-05 Plusの機動力はバッテリー駆動化したADI-2 DAC FSを大幅に上回るので、大まかに傾向掴むだけならXD-05 Plus使う方が気楽だったり。
 音源はFLAC(44.1~192kHz)やDSD(64(2.8MHz)~128(5.6MHz))。最近は配信サイトでハイレゾ音源を単曲買いすることが増えていて、96kHz/24bit以上のフォーマットが地味に充実してきたのはオーディオ機器の感想書く上で丁度良くなったなー、と言うか。



<開放型モニターヘッドフォン雑感:
  beyerdynamic DT1990PRO ファーストインプレッション>
 九月に注文してからずっと到着を待っていた箱を開くと、最初に見えたのはゴロッとした四角いキャリングケース。そのしっかりした作りに「おー、流石はプロ仕様…」と感心しながらファスナーを開けて、……ようやく、念願のDT1990PROとの御対面が叶った。

 ヘッドバンドのアームを縮めきった状態で収まっていたのもあるが、パッと見の印象は「思ったより小振りなんだな…」。そして真っ黒。殆ど飾りっ気無し。無骨。だがそれが良い。
 実際に手にとって触れてみると、アームだけでなくハウジングまで金属製で質感良し。ハウジングのスリットの奥に覗く銀のメッシュが良い味出してる。格好良い。

 ケースの中には交換用イヤーパッドとケーブルがそれぞれ二種。イヤーパッドは通気孔の数が多いバランスドと数が少ないアナリティカルが在り、デフォで装着されているのは前者。ケーブルは3mストレートと5mカールコードがケース内のポケットに収められていた。
 想定していたかどうか定かでないが、ケースは結構スペースに余裕があり、3mストレートケーブルを本体に装着したままでもヘッドフォンを収納出来た。ぶっちゃけケーブル付けっぱなしのまま収納出来るとは思ってなかったので、少々意外だが嬉しい誤算だった。


 肝心の音について。
 専らADI-2 DAC FSに繋いで、現在のマイレファレンスであるT60RPと聴き比べてみた。

 暫く聴き続けて最初に思ったのは「エッジがカリッカリに立ちまくってるなあ…」。
 歯擦音や金管楽器、シンバルなど高域の鳴りがT60RPに比べて容赦無く、フツーに耳を刺してくる。尤も「刺さり過ぎでとても聞いてられねー!(怒」なんて塩梅ではなく、あーモニター機だけあってやっぱエッジ立ててあるんだなー、とぼんやり思う程度。

 一旦T60RPにスイッチし、後にもう一度DT1990PROへ戻してピンと来たのは、「T60RPは少し引いた所で鳴っているような感覚が有る」こと。対してDT1990PROは、傍らで音が出ているようなダイレクト感があり、それ故か解像感が凄い。DT1990PROからT60RPにスイッチすると、一瞬曇っているような気がしてしまう程。
 つーかT60RPは高域の「刺さりに影響がありそうな辺り?」をかなり「聞きやすく丸めてある」ことが分かってちょっとびっくり。DT1990PROからスイッチした際の「曇り感」は恐らくこの辺に起因するものだろう。単純に「クリアか否か」を問うならT60RPの音は十分且つ間違いなくクリアなのだが、しかしDT1990PROはクリアっつーか兎に角「明確」で、その上更に「微細」。最早音の「輪郭」が垣間見えるような感じ。めっちゃ細かい。

 じゃあ低域は、と言えばこっちはこっちで文句なくしっかり響く。そして開放型なだけあってちゃんと圧が外へ抜けて適度に逃げていく。籠もった感じは無く、それでいて量感が確か。レスポンスも良い。
 中域もバッチリ。中域や高域ばっか目立ってボーカルや主旋律が死んでるなんてことは先ず無い。てかそれ以前に分離感良過ぎて埋もれるどころの話ではない。どの音に意識を向けてもしっかりソレを捕捉出来るし。

 総じて、まさに「超高解像度ヘッドフォン」といった趣き。
 これまでに自分が使用していた機種で、真っ当に「モニター機」と言えるのは先日手放したSRH440だけだろうが、記憶の中でDT1990PROと比較すると「やはり値段なりだったんだなあ…」と思わざるを得ない。単純に考えて5~6倍近いからな…

 個人的には、超高解像度だから長時間は聞き疲れる、といった感覚は全然無かった。確かにT60RPと比べてもシャープな音で、音像?がとてもハッキリクッキリしているものの、ソレはソレとして十分以上に音楽を楽しめた。まあ聞き流しには向かないかもしれないが。
 むしろ聞き疲れがあるとしたら音よりも装着感の方。イヤーパッドはふかっとしていて感触上々なのだが、側圧が結構キツめなので思いの外じわじわくるかも。一方で頭頂部の負荷はそんなでもない。

 因みに音量だが、T60RPと概ね同等の音圧?を得ようとすると、大体同じ程度のボリューム位置に落ち着いた。
 インピーダンスはT60RPの方が明らかに低い(DT1990PRO:250Ω、T60RP:50Ω)が、一方で感度はDT1990PROの方が公称上で10dBも高い(DT1990PRO:102dB、T60RP:92dB)ので、その辺が上手いことプラマイゼロになったのかも?



<密閉型ヘッドフォン雑感:
  audio-technica ATH-WP900 ファーストインプレッション>
 箱出しして最初に思ったのは、「……相変わらずオーテクのウッドハウジングポータブル機はデザインがシンプルやな……(苦笑」。
 ぶっちゃけ、売却したATH-ESW9がそのまま一回り二回り程大きくなっただけというか。ハウジング以外がプラスチッキーで微妙に安普請なトコもあまり変わっていない。一応、ヘッドバンドのアームはしっかりした作りの金属製で、動き具合も頗る良かったが。
 ただその肝心のハウジングは確かにかなり綺麗。自分の個体はサンバースト塗装?のグラデーションや木目がそこまで鮮やかなモノではなかったが、それでも得も言われぬ美しさを醸し出している。街中でこんなの見掛けたら思わず目を奪われそう。

 その他で感心したのは、オーテクの独自端子A2DCコネクターのカッチリした嵌り心地。一見するとMMCXっぽいのだが、アレよりも大分安定性高そうで安心できる。
 凝り性なマニアからすれば、独自端子故にリケーブルで遊び難いのが欠点らしいが、個人的にケーブルで諭吉飛ばすのは幾ら何でもナンセンスと思ってるので無問題。むしろ断線のリスクを低減出来る、って方が余程重要である。

 付属品は布製のキャリングケースと4.4mmバランスケーブル。前者はほっとくとその内加水分解でボロボロしてきそうなのがちと不安。そして後者は今の所対応する上流機器が無いので泣く泣くお蔵入り確定。出来ることなら、遠からず4.4mmバランス出力を備えたDAPを是非共導入したいものだが…

 んで音出し。
 試しにADI-2 DAC FSに繋いだところ、ハイパワーモードを切ってあってもPhones端子ではT60RPやDT1990PROに比べて音量をかなり取りやすくて驚かされた。……まあインピーダンス(38Ω)と感度(100dB)考えたら当たり前っちゃ当たり前だけど。
 だから、という訳ではないが、気が付けばWP900は主にXD-05 Plusへ繋いで聴き込んでいたり。一応ポータブル機のはずなんで、それでも十分なはず。


 WP900の音を聴き始めてすぐに思った。――成程、低音の主張が凄い。
 それも、想像していた以上に。

 密閉型というハウジング構造の性質によるものだろうが、低音の響きが相当強い。DT1990PROと比較した場合、瞬間的な圧力はDT1990PROが勝るものの、残響まで含めた低音の「量」はWP900の方が多め。
 ではボワついた締まりの無い緩~い低音なのか、といえば全然そうではなく、何と言うか「レスポンスに優れたドライバーが鳴らす低音を、ハウジング内に反響させて意図的に響きを持たせている」感じ。多分狙ってチューニングしている類の音。
 その為か低域強めでも嫌気は覚えず、むしろ単純に「これはこれで、新鮮で良いんじゃね?」と思ったり。……我乍ら此処最近「ADI-2 DAC FS+T60RP」という、かなーりニュートラル傾向強い組み合わせでリスニングし続けていた反動だろうか?

 これだけ低域の主張がはっきりしていると中域~高域の聞こえ方が不安になりそうだが、中々どうして十分過ぎる程クリア。この辺は低域少ない曲を聴けばよく分かるはず。
 特に高域は「刺さりはしないが何処か鮮やか」という絶妙な塩梅で、DT1990PROのようなモニター機の「エッジの立った明瞭さ」とは異なる「明るさ」を感じられた。中域のボーカルや主旋律もしっかりと耳に届くので、音楽のジャンルは割と何でもイケそう。

 ところで、T60RPやDT1990PROはぼーっと聞き流していても分離感が相当に強い辺り、やはりモニター機の系譜なんだなあと思わされた一方で、WP900はそこまで音楽の構成要素をバラしてこない。無論、意識向ければ十分にクローズアップ出来るレベルの分離感は備わっているが、基本は音の分離よりも音楽の纏まりを重視している気がする。その辺、なるほどWP900はモニター機というよりリスニング機なのねー、と実感したり。
 低域強めのリスニング機、なんて聞くと売却したATH-ESW9を思い出すが、……流石に購入価格が三倍以上するWP900とアレを比較するのは御門違いってモノ。ESW9は全体的に鳴りがスモーキーだったのに対し、WP900は中域から高域がクリアで低域のレスポンスも優れており、解像感が段違い。またESW9はオンイヤーだったが、WP900は大型化によってアラウンドイヤー化したおかげで装着感が格段に向上。鳴りっぷりに狭っ苦しさが無く、低域強めでも聞きやすく仕上がっているのは大きな違い。

 総じて、「屋内使用でも全く問題無い、ハイクオリティなリスニングフォン」。
 T60RPやK701、HD595といった「特定の帯域を余り強調しない」タイプ、つまりどちらかといえばフラットバランスなヘッドフォン達と比較すると、明らかにドンシャリ系。間違いなくモニター用じゃなくてリスニング用だが、鳴らし方が上質なので「音楽を楽しむ」分には何の問題も無かろう。
 愛用しているHD25 OriginalsとWP900を、ポータブル向けという括りで比較すると、前者が「地味なのに荒っぽい」一方、WP900は「派手だが端正」な鳴り方で実に好対照なのが面白い。少なくとも、現代的なHi-Fi感を得られるのはほぼ確実にWP900の方だろうが。



 以上、高級オーバーヘッド二機を纏めて初聴感想でした。やはり値段が値段だけあって、何方も良い音してますなあ…
 解像感が凄まじいDT1990PRO、クリアな中高域と豊かな低域が楽しいATH-WP900、二つとも現在のレファレンスであるT60RPとは違った風情で、気分やら曲やらに応じた使い分けが楽しめそう。諭吉をド派手に吹っ飛ばしてしまった(DT1990PRO:48k、WP900:65k)が、この満足感なら良い買い物だった。

 ……さぁて。残るは4.4mmバランスが使えるDAPなりHPAなりですな……
 前回の記事で書いたHiBy R6の新型が最近正式に発表されて、ソイツが中々良い感じのスペックしてたんでけっこー気になってたり。同軸デジタルが3.5mmからUSB-C兼用になってしまったのは大変残念だが、……「レファレンスレベルのDAP環境」をなるべく新しいブツから選ぼうとすると、どうしても選択肢がねえ……(溜息
 んん?こないだ気になってるっつってたKANN ALPHAはどうなった?、と言われそうだが、…………やっぱ140kは高価ぇよ!ADI-2 DAC FSよりも高価ぇのは承服しかねるわ!それなら100k前後でSDM660+RAM4GB+青歯5.0+泥9.0+フルHD IPS液晶と五拍子揃ってるHiBy R6の新型待つよ!安いのは大正義だよ!!(力説



※追記[201201]:WP900のイヤーパッド交換
 某掲示板や密林のレビューでWP900に使えるとの声があった、YAXI製汎用イヤーパッド「stPad2」を購入した。

 届いたstPad2を見ると、完全に楕円形状だったので「これホントにWP900に取り付けられんのか…?」と少し不安に。が、実際にやってみるとフツーにすんなり装着出来て拍子抜け&一安心。
 とは言え純正イヤーパッドと違ってWP900にぴったりフィットしているとは言い難いが。まー元々CD900STとかあの辺を想定したブツだからしょーがないネ。

 触ってみた感じ、stPad2はWP900の純正イヤーパッドよりも合皮が厚く、しっかりした造り。イヤーパッド内部は半分が合皮、半分が布地(アルカンターラ)という凝った構造になっており、空間が広く余裕を持って耳全体を覆ってくれる。
 装着感だが、……初っ端は正直ちょい戸惑った。ヘッドバンドの長さが純正イヤーパッド使用時と同じポジションだと当たりがかなり緩く、軽く頭を振っただけで大きくズレてしまいそうな塩梅だった。そこでヘッドバンドを少し縮めてやると側圧が増して、ちゃんとホールド出来るように。
 肝心の音については、事前に聞いていた通りの効果が得られた。つまり「低域が締まる/低音の量が減る」。純正イヤーパッドでは激しかった低域の主張、もとい低音の量感が一気に抑えられ、その分高域から中域の明瞭感が増した印象。良く言えば常識的なバランスになり、悪く言えばユニークさや面白味が減った感じ。XD-05 Plusのバスブーストを使うと純正イヤーパッド使用時と概ね同じ様な聞き心地になったので、やはりデフォのままだと低音過多だったんやなー…、と改めて痛感させられた。
 試しにstPad2を装着したWP900とDT1990PROを比較すると、stPad2の効果で随分とバランスが近付いた――なんてことは全然無く、何だかんだ言って案の定前者の方が低域強めだった。つーか前者はハウジング内で低音が反響・増幅されてる感が凄い。後者は開放型故に低音の反響感は全然無く、上から下まで只管すっきりさっぱりされどちゃんとしっかり鳴っていて、この辺が「開放型モニター」と「密閉型ポータブル」の差なのかなー、とか。

 個人的には、音の変化以上に質感が気に入ったので当分stPad2で通そうかな、と。YAXIのイヤーパッドは既にHD25 Originals用として「HD25 TypeB」の青色(※青のみディスコン)を購入して愛用しているが、相変わらずきちんとした品質で大変有難い。
 無論コレで音の変化がダメダメなら当然ボツにするが、ちょいと主張過剰かなー?と思わなくもなかったWP900の低域を良い感じに抑えられたので、その点でも割と満足していたり。