2022/10/09

開放型ヘッドフォン雑感:GRADO RS2x(+α)

 前回、M7の雑感を記した際、最後に「次何か買うとしたらGRADOかも?」とか宣っていたワケだが。
 ――――ホントに買っちゃったよ、GRADO。(乾笑


 言い訳させてもらうと、「何れGRADO買うとしても何が良いかなー、RS1xとRS2xならどっちが良いかなー」なんて考えながらRS1x・RS2xのレビューを国内外問わず探し回っていた丁度その時に、某店でGRADO製品が派手に値下げされているのを知ったのがマズかった。
 だって二割引きだぞ二割引! ポイント値引きの実質価格とかじゃなくて、現金値引きで二割引は為替レートによる海外製品の価格高騰著しい昨今にあって破格過ぎるだろ……!(力説+目線明後日+滝汗
 ……まあ要するに、また物欲に負けていつもの衝動買いをやらかしてしまっただけである。(遠目

 初GRADO故に機種の選定にはかなりの時間を要した。特にRS1xとRS2xではめっちゃ悩んだ。更に言えばSR325xも割と迷った。大分値段落とせるし。
 初めにRS1xとRS2xの何方か一方にする事を決めて、それから海外レビューを散々漁った末、最終的にRS2xをチョイスすることにした。
 決め手としては、

・RS2xの方がGRADOらしい音、所謂ハウスサウンドを期待出来そう
・RS1xはトライウッドハウジングによる共振に独特な癖があるっぽい?
・中低域はRS1xが強いものの、RS2xの方が最低域まできちんと鳴るらしい
・ジンバル素材の差異による重量差(RS1x:金属、RS2x:プラ)
・価格(RS1x:90k、RS2x:66k ※共に値引き後)

 ……以上の通り。
 前世代のRS1eでも同じ事言えるっぽいが、どうもオンイヤータイプの小さめなハウジングに50mmドライバ積んだRS1e・RS1xは使い熟しが難しいと言うか好みが分かれやすいらしく、仮にGRADOの50mmドライバを本格的に楽しみたいなら、アラウンドイヤータイプの上級機であるGSシリーズまでステップアップしてしまった方が良さそう、という…
 つい先程RS2xとRS1xの価格を天秤に掛けた旨を書いたが、しかし約90kという出費をまるで覚悟していなくて土壇場でカネが惜しくなったってワケじゃなく、事前調査の結果として、
「ドライバやハウジングによるクセが強そうなRS1xよりも、伝統的GRADOサウンドらしく音色素直っぽいRS2xの方が、GRADO初心者の自分には丁度良さ気」
 ――と、判断するに至った次第。

 そんなワケで、自分もとうとう紳士のヘッドフォンと(悪)名高いGRADOデビューを果たしてしまった。
 装着感がヒドいとかケーブルがゴツいとか、そもそも造りがチープ過ぎて民芸品にしか見えないとか、散々な言われ方しているのはずーっと前から知っており、いつかは試してみたいなーと長らく思っていたので、今回の購入は中々感慨深いモノがあったり。

 ……実を言うと、今回RS1xとRS2xで迷うよりもかなり前、某世界的超有名ロックバンドの某アルバムにインスパイアされたらしい限定モデル「The White Headphone」の存在を知って、見た目が好みだった故購入を真剣に迷った時期があったが、結局ソレはお流れになった。
 此度RS2xを入手し、その音を体験した後になって考えれば、結構評価割れ気味だったThe White Headphoneを見送ったのは、正直正解だったなあ、と。


 さて本題。
 購入店舗から届いたダンボール箱を開けて、RS2xの箱を取り出してみる。……分かっちゃいたがめっちゃ軽い。Shanling M7の箱の方が重量感あったぞコレ…
 ヘッドフォンのスペック表記を兼ねた封印シールをカッターで慎重に切断し、開封。ガバッと箱を開けて、RS2x本体といざ御対面。

 ――そして、思わず硬直。
 嗚呼、民芸品とか言われてるのも宜なるかな……(引攣笑

 率直に言おう――見た目すんごいチープ。コレが値引き前なら80kオーバーするとか正気か!?、とドン引きするレベル。
 一応フォローすると、ヘッドバンドはちゃんと天然皮革(牛革?)を使ってるみたいだし、ハウジングは楓-麻-楓の三層構造で実に凝った造りである。……そのハズなのだが、兎に角全体的な雰囲気が実に安っぽくて困る。
 ……値引き後でも66kかー、しかもこの見た目でかー……(遠目

 更にケーブルが超ゴツい。先ず太い。そんで編み込み被覆がやたら繊維キツいヤツ使っててすんげえゴワゴワ。とてもヘッドフォンのケーブルにゃ見えない。一体なんなんコレ。(困惑
 まあ昔のGRADOフォンはケーブル被覆がゴム?で、分岐部辺りで被覆が裂けてしまい中の線材が露出する、なんてしょーもない事態が発生してたらしい事踏まえりゃ、格段にマシになったと言えるのかもしれないが…

 経年劣化すると宛ら砂の如く崩れていくというイヤーパッドにも驚愕。いやもうただのスポンジじゃねーのなんなんすかコレ??(混乱
 でもよく見ると多層構造になってて層毎の弾力が微妙に異なっており、マジで「ただのスポンジ」ってワケじゃ無さそうなのが良い具合に認識を狂わしてくるとゆーか…

 初めてのGRADOクオリティに散々戸惑いつつ、いつものように端子を接点復活剤(Cleansable)でメンテ。オーバーヘッド且つプラグがアンバランスの3.5mmって事を踏まえ、初っ端は取り敢えずXD-05 Plusで鳴らしてみた。ソースはM3XからのLDACで簡単に。


 音出し一発目の感想は「なんつー明瞭感してんのコイツ!?」。
 明瞭感の高さが半端ではなく、曇りだの籠もりだのが一切感じられない。間違い無く確実に手持ちのヘッドフォン・イヤフォンで最強の明瞭感。一発で「あーダメだ、自分この音大好物やわー」と聴き惚れてしまった。

 GRADOのヘッドフォンと言うと、事前のイメージとしては、
「ドンシャリでロック向き、明るい音でモニターというよりは明確にリスニング向け、しかしある意味原音に非常に忠実」
 ……という、かなりアグレッシブでメリハリのはっきりした、それこそハードロックとかヘヴィメタルにマッチしそうな、失礼ながらぶっちゃけ雑目な鳴りを想像していた。

 が、実際に自分の耳で体験したRS2xの音は、そんな予想とは掛け離れたものだった。
 何と言っても明瞭感の高さが際立ってはいるが、じっくり聴き込むと何かと「素性の良さ」みたいなモノを感じるというか。……忌憚無く言うと「チープな見た目からは想像出来ない程、端正な音作りが為されている」のだ。
 意識すれば分け離せるが、そうでなければ一纏まりで聞こえる丁度良い分離感。ほぼ完全開放型めいた構造故の良好な音抜けと、それによる圧迫感の無さ。圧倒的な明瞭感を誇る中域を囲む、良く伸びて行く高域と引き締まって下の方まで響く低域。
 確かにモニターヘッドフォンのようなカチッとした正確さを感じる鳴りではないが、しかし安物でよく見られる安直なドンシャリバランスとは程遠く、決して「雑な」音ではない。むしろ如何にも高級ヘッドフォンらしい、「整った」風情に大変驚かされてしまった。

 DTM・EDM等の所謂「打ち込み系」に適すと評され易いGRADOフォンだが、RS2xを使ってみた感じ、取り立てて苦手とするようなジャンルは無く、個人的にはフツーにオールジャンル何でも楽しく聞けそうな印象。強いて言えば、明瞭感に優れ圧迫感の無いスカッと爽やかな響き方をする機種なので、ダウナーでスローでダークな曲調には向かないかなー?、って感じ。
 上述したように「素性が良い」――穿って言えば、ドライバのレスポンスからハウジングによる反響まで含めたトータルスペックの高さを感じさせる音だし、「コレは壊滅的に合わない!」ってパターンはそうそう無いんじゃ無かろうか、なんて。

 注意点として、「ブレークインで結構音が変わる」。
 個人的にはブレークイン(所謂エージング)の効果は偽薬効果(プラセボ)による面が多分に含まれると考えているので過信するつもりは無いが、その上で、鳴らし初めの頃は「高域がちょっとシャリついて刺さり気味+全体的にスピード感がおっそくてもたつく」って感じだったのが、しばらく鳴らし込むと殆ど解消されて気にならなくなっていたり。

 また、上流によって音が変わり易いっぽい。
 RS2xの駆動はXD-05 Plus→Shanring M7→ADI-2 DAC FS→Shanring M7→XD-05 Plusとスイッチしていって、ADI-2 DAC FS使って鳴らしてみた時点で上述のもたつきはほぼ解消されていたが、その上でADI-2 DAC FS・Shanring M7・XD-05 Plusの三つの上流それぞれに於いて、微妙な鳴り加減の変化を感じた。

 ADI-2 DAC FSは兎に角解像感がダントツで、特に高域はやや刺さりを感じる程に鮮烈。それでいて低域の薄さを感じることも無い、と流石のプロ用モニタークオリティ。
 対してShanring M7はADI-2 DAC FSと比較して高域のエッジが丸められており、解像感は若干劣るものの聞き易さに優れるリスニング系チューニング。DAPながら駆動力不足な薄っぺらい鳴らし方はせず、ADI-2 DAC FSに迫る力感を備えているのは感心。
 最後にXD-05 Plusだが、M7程高域を丸めてはいないがADI-2 DAC FS程の解像感を感じる事も無く、両者の丁度中間的なバランスに感じた。但し二機に比べて鳴らし方が少々サッパリしており、力感はやや劣る。特に低域で顕著。だがRS2xの音色に合致しているのか、聞いていて其程不満足感は無い。


 一頻り音周りについて記述した所で、そろそろソレ以外について言及すると、
・装着感は独特
・音漏れは漏れとかいう次元ではない
・鳴らし易さはまあまあ

 先ず装着感だが、GRADOフォン特有のスポンジ系イヤーパッドの感触がマジ独特。キメ細かいウレタンフォームのような柔らかく滑らかな肌当たりは無い。が、意外と不快感も無い。そして何気に蒸れ感が殆ど無いのは、明確な強みに数えて良いのではなかろうか。頭頂部の負荷も、元々が軽量なのでそれ程強くない。
 総じて「物凄く快適ではないが、さりとて格別不快でもなく、概ね問題無しと言えるレベル」。……ある意味、奇跡的なバランスな気がしないでもない。

 音漏れは考えるだけ野暮。ほぼ完全開放型に等しい構造なのでダダ漏れもいいトコ。Edition XSも中々ヒドかったが、RS2xの漏れっぷりは、何かもう、論ずるに値しないレベルっちゅーか……(目線明後日
 ヘッドフォンハンガーに吊るしてプレイリストをテキトーに鳴らしてやればミニコンポの出来上がりである。しかも多分コレ下手な安物スピーカーより音良いんじゃないかねえ……(なげやり

 感度とインピーダンスは99.8dB/32ohmで鳴らし易さは程々。BA積んだ高感度IEMに見られる複雑怪奇なインピーダンス特性とはどうせ無縁だろうし、昨今のDAPなら音量稼ぐだけなら先ず問題無かろう。
 ……と思っていたのだが、ちゃんとドライバ特性計った方によると、どうやら低域に急激なインピーダンスのピークが見られるらしく、ってことは上流の駆動力がショボいと低音が痩せ易いっぽい。一応自環境を例に取ると、Shanring M7でRS2xを鳴らした際に低域の不足を感じた事は無いので、そのくらいの駆動力があれば大丈夫と思われる。むしろ怪しいのはXD-05 Plusか。……尤も、XD-05 PlusとRS2xのペアリングは駆動力不足と言うか、むしろ駆動力過剰で音量を絞り難い(※アナログボリュームなので絞り過ぎるとギャングエラーを誘発してしまう)、って方向性の厄介さな気もするが……


 ――とまあ、初めてのGRADO使用レポとしてはザッとこんなもんだろーか。
 ヘッドフォンやイヤフォン等のパーソナルオーディオに凝り始めてもう十年以上経つが、その頃から噂には聞いていた、所謂「全裸紳士フォン」なる謎ワードの対象をようやくこの目で確かめる事が出来て、妙な満足感を感じてしまっているのが我乍ら大概沼ってるよなあ、っつーか。(苦笑
 その一方、自らの耳で体験したGRADOの音は予め想定していたよりも遥かに全うでマトモな「値段相応の音質」で、良い意味で予想を裏切られた感強め。GRADOフォンを複数所持している方曰く「X世代になって一皮剥けて音が整った」らしいが、……ソレならソレで、一皮剥ける前の如何にもアメリカンで荒々しい?旧世代の音も気になってしまいますねえ……(※最早病気






 以下、最近の買い物とかちょっと前の買い物とかについて。
 興味が有る方は続きをどーぞ。

アニメーション雑感:機動戦士ガンダム 水星の魔女

 鉄血のオルフェンズ以来となる、アナザーガンダムシリーズの新作。
 当初「女性主人公の学園モノでヒロインも女性、即ち百合ガンダム?」と噂を聞いて、殊更に百合展開を好まない性分としては「あんま百合に拘るなら敬遠かなあ…」と思っていたのだが、10/2から始まる本編の前日譚「Prologue」を見た層の感想がどうにも(良い意味で)キナ臭く、本編開始直前に、Prime Videoでの配信が解禁されていたPrologueを取り敢えず観てみた。

 ――そして、確信した。
 嗚呼、コレは確かに「ガンダム」だ、と。

 その後、本編もリアルタイムで観て、更に本編放送後に公開された公式小説「ゆりかごの星」、及びソレを元に創られたという主題歌「祝福」の歌詞も読み込んで、現在、俄然今後に期待していたり。
 ガンダムで百合展開!?、という部分ばかり騒ぎになっているきらいがあるというか、実際本編第一話観ただけだと確かにそんな感じなのだが、……Prologueとゆりかごの星を挟んだ途端にアラ不思議、いつものガンダムの不穏な空気が出来上がり、という構成が良い感じに此方の脳ミソをシェイクしまくってきた。

 特にPrologueは、自分のように百合要素に懸念を抱いてしまうタイプのガンダムマニアが観た場合、その「ガンダム」らしい不条理感にある意味ホッとすると同時に、今までに無い、余りにも衝撃的に過ぎる展開で情緒が崩壊する事必至。いやまあ後者はマニアでなくとも只管混乱させられるだろうが…
 そして第一話を観た後に「ゆりかごの星」を読めば、「彼」の「彼女」への想いに尊みを感じつつも、明らかになったPrologueから第一話までの軌跡に、どうしようも無いやるせなさを覚えてしまうハズ。……今回のガンダム、感情の振れ幅がちょっと大き過ぎじゃない??

 既にネットやSNS上で散々感想やら考察が為されている本作だが、自分も観劇していて少々気になってつい深読みもとい妄想してしまった点を以下に書き記してみようと思う。


・ルブリスの戦闘機動
 エリィことエリクトによって「レイヤー33からのコールバック」が得られた事で、完全起動を果たしたルブリス。そしてルブリスはエリィがモニタ上で指し示した三機の敵MSを、「極めてスムーズな動きで」瞬く間に撃墜せしめた。
 ……が。此処、よく考えると中々疑問が生じるシーンである。

 作中に於けるガンダムは「GUND-ARM」――元々は義肢技術である「GUND」を、MSという兵器の制御システムに拡張・発展させ搭載したMSを指すらしい。作中描写等から見て、つまり本作のガンダムはパイロットと神経接続ないしは同調を行う事で、従来機とは隔絶した機動性能を実現しているのだろう。
 要は「思考制御」――頭で思い描いた通りに機体を動かせる、エヴァのシンクロ率とか、ネクストのAMSとか、鉄血の阿頼耶識とか、あの辺の系譜と思われる。

 ……しかし。
 だとすれば劇中の、ルブリスの「極めてスムーズな戦闘機動」は、一体「誰のビジョン[操作]によるもの」なのか?

 エリィである可能性は低い。僅か四歳の幼児に、MSの戦闘機動というビジョンが有る筈も無い。
 同乗していたエリィの母エルノラの可能性も低い。彼女は、エリィの手指に導かれるままルブリスが敵機を立て続けに瞬殺する様を、呆然と見遣るだけだった。一応、MSの戦闘機動に関して言えば、エリィよりは遥かに詳しい知識を持っているかも知れないが、少なくともあの瞬間に於いて、彼女が主体的にルブリスの操作を行っていたようにはとても見えない。

 では、一体誰が?
 ……恐らくだが、LF-03「ガンダム・ルブリス」、ソレ自体によるものではないかと自分は考えている。

 後述しているが、ルブリスの改修機or後継機?であるガンダム・エアリアルにはどうも明確な自意識が存在しているっぽい。ならば、ほぼ確実にエアリアルの前身であるルブリスにも、程度の差こそあれ「ルブリス」という自意識があってもおかしくは無い。
 また、ソレ――「ルブリス」が目覚めたのはほぼ確実に、「彼」がエリィと接触、そして彼女を認識したその時だろう。レイヤー33はおろか、レイヤー34という更に深い階層との同調を果たし、ビットを何の身体的負荷も無く操ったエリィこそが、長らく目覚めなかった「ルブリス」という赤子を呼び覚ましたのだ。そうして覚醒したルブリスは、自身と繋がったエリィを守る為に、MSという機動兵器たる己の機能を行使したのではないだろうか?


・エアリアルに意思は有るか、否か
 「ゆりかごの星」の語り部は、まさかの主人公機「ガンダム・エアリアル」そのものだった訳だが、コレはあくまでも小説に於ける擬人化と言うか、そういう表現に過ぎないのでは?、と見る向きもある。
 確かにその可能性が無いとは言い切れないが、個人的にはガンダム・エアリアルに「エアリアル」という意思・自我は有る、と考えている。

 そう思うに至った描写は以下の通り。

【ライブラリを見る? とスレッタにメニューを表示すると、お気に入りのアニメを選んだ。】
 地球ってどんなところ?、というスレッタの質問に対して、エアリアルは「メニューを表示する」という形で明確に「返答を行っている」という、何気に凄いシーン。

【「エアリアル、出力は私が調整する」】
 「私が」調整する、という事は「エアリアルが」主体的に調整する事も可能なハズ。だがエアリアルはスレッタに出力調整の主体を委譲しているワケで。
 つまり両者の間で、提案と受諾、というコミュニケーションが成り立っている事を示している、ように感じられた。

【僕は同意の意味をこめて、モニタ表示を二回瞬かせた。】
 決め手と言うか、そりゃこんな記述されたら単なる偶然なんて思えない、どー考えてもエアリアル自身の「感情」が有るよなあ、という。

 ……そして。
 エアリアルに固有の意思・自我があるという事、その上ソレによる機体の制御が可能である、と言う事は、「GUND-ARM」という存在について一つの可能性を生じさせる。


・GUND-ARMが目指す所
 義肢技術であるGUNDは、ばぁばこと博士に言わせれば「過酷な宇宙という空間で、人間が生きてゆけるようにする」為のテクノロジーらしい。人体をサイボーグ化することで、宇宙という環境に負けないようにする、って事だろう。
 ならば、GUNDフォーマットによりパイロットと同調して稼動するGUND-ARM、ガンダムというMSは、言ってみれば「全身がGUNDで構成された、凡そ20m程度に迄拡大された「ヒトガタ」、つまり「巨大化されたヒトの身体」」と見れなくはないだろうか?
 そしてその場合、巨大化したヒトの身体たるガンダムの思考中枢は、恐らくガンダムと同調を行うパイロットが担う事になると思われる。……基本的には。

 だが、ガンダム・エアリアルは「エアリアル」という固有の意思・自我を有している可能性が高い。しかもその情緒は、「復讐」という極めて人間臭い情動を理解し、自身の相棒であり家族である少女を、大切であるが故に其処から遠ざけさせたい、と思考する程に高度なものだ。
 要は、本来パイロットが担うべき、鋼の身体を司る思考中枢――脳に相当するシステム、それも自分自身の独立したソレを、ガンダム・エアリアルは既に得てしまっている。これは即ち、ガンダム・エアリアルは、GUNDという技術によって実現した、「鋼の身体持つヒト」そのものなのでは?、と。

 ……そしてその実、その有り様こそが、GUNDの目指す最果てではないだろうか?

 作中描写を見るに、GUNDは人体のほぼ全ての置換を可能としているように見える。強いて言えば首から上の完全置換が為されていないだけで、逆に首から下の置換はほぼ実現済っぽい。
 此処で先のガンダム・エアリアルを思い返すと、GUNDフォーマットに則って造られた「彼」は生物的な有機組織を持ち合わせていないが、しかし家族や復讐と言った複雑な生物的・人間的情緒を理解出来る思考中枢を持ち、自意識に目覚めている。
 逆に言えば「自我を確立させたガンダム」の成立は、人体のGUNDによる完全置換の可能性を一気に切り開き得る存在に等しい。エアリアルの思考中枢を解析し、リバースエンジニアリング出来れば、ヒトの脳、意識や自我を、完全に電子化出来る道筋が立つ可能性が非常に高い。

 脆弱な生物的身体から脱却し、宇宙という過酷な環境に耐え得る身体に、ヒトの姿形、在り様を改めることを可能にする――
 博士が目指していたGUNDの未来とは、そんなビジョンなのではなかろうか。


・「ガンダム」を目覚めさせたモノ
 「GUNDによる完全なヒトの模倣と拡張」がガンダムの目指したモノであるなら、あの時何故、エリィがルブリスを目覚めさせ得たかについても、凡そアタリが付き得る。

 三、四歳の幼児期は未だ未だ脳が未発達で、それこそ「自身の身体機能を脳がきちんと把握しきれていない」程であることが、実際の研究で現実に報告されている。
 しかしその一方で、幼児期は聴覚的な言語認識能力が非常に高く、この時期に上手い事多数の言語に耳を慣らしてやれば、将来マルチリンガルになる基礎を築く事が出来る。だが単一の言語しか聞かれない環境に居ずっぱりだと、その言語を捉える為の神経的繋がりを残して、他の繋がりは衰えて絶えていってしまうのだとか。
 つまり幼子の無垢な脳は、「深いが狭い」大人の脳に対して、「浅いがとても広い」神経的繋がりを有しており、大変豊かな可能性を宿しているのだ。

 エリィがルブリスと繋がるまで、「ルブリス」が知っていたのは「大人」というシステムだけだった。発達したが故に、可能性としては狭いモノであるネットワークしか知らなかった。
 だがルブリスは、あの日エリィと繋がった。四歳の子供という、未発達で、無垢な、広く可能性に富んだネットワークを知る事が出来た。

 きっと、その瞬間だろう――「ガンダム」が、完成したのは。

 発達した成人のパターンだけでなく、無垢で未発達な幼子というパターンを認識した事で、「ルブリス」はヒトのニューロンネットワークをほぼ完全にエミュレート出来るようになり、それによって自意識を確立した――――そんな所ではないだろうか?


 …………と、まあどのトピックも既に諸説飛び交っている模様だが、自分はこんな感じかなー、と考えたり思ったりしていた。
 百合で学園でガンダム?!、と思ってたらPrologueとゆりかごの星の内容がヘヴィ過ぎる上に、主題歌「祝福」でエアリアルのスレッタに向ける感情が良い意味で激重過ぎて、その上色々と考察やら妄想やらが捗りそうな展開と設定だもんだから、かーなーり各方面で話題を掻っ攫ってる気がする。

 ただ一つ言えるのは、「絶対にただの百合アニメではないぞ…」って事か。
 何せ「機動戦士ガンダム」の名を冠する以上、その物語は「人の『業』」をコレでもかと描いてくる事は間違い無い。キマシタワーな話を期待し過ぎると確実に足元をすくわれるので、百合好きは覚悟した方が良いぞー?
 尚、宇宙世紀勢の自分としては憎み合い宇宙な激重展開でもバッチコイですが、何か。(ぇ