2022/09/02

レファレンス級DAP雑感:Shanling M7 ファーストインプレッション

 4.4mm出力やデジタルトランスポートとしててんてこ舞いなShanling M3X。エントリークラスながら、プレイヤーとしての音質からAndroid OS端末としての機能性まで手堅く纏まっていて大変重宝しているが、やはり我が一番のレファレンス環境であるRME ADI-2 DAC FSと比較してしまうと、音質面でちょっとパッとしない面がある事は否めなかった。
 その為、M3X購入後もDAPやPHPAの物色はずっと続けており、取り分けDAPを意識して日頃から新製品情報等、各メーカーのプレスリリースやAV系メディア、ブログを注視していた。相対的に優先度が低かったPHPAについても、iFi xDSD Gryphon等は相当迷ったっつーか、正直今でも面白そうだなーと考えていたり。

 Shanling M7は海外で新製品として案内があってから、今の今まで注目し続けていたDAPで、製品の構成に比して然程値が高価く無い点にかなり惹かれていた。特に、据え置き向けのハイスペックDAC「ES9038Pro」を、電源回路の都合上ポータブルオーディオでは扱い難い電流出力で敢えて動作させるという辺りは、中々にマニア心を擽られてしまった。
 尤も、ドル価格$1249は現在のドル→円レートだと日本円で160kを軽々超えてくる為、気にはなっていても中々手を出す決心は付かなかった。出来ればケース・ジャケット等込み130k未満で手を打てないものかと考えて色々探したものの、M7以上、或いはM7並にそそられる選択肢が見付からず、まあ今後の新製品を待つしかないかー……と黄昏ていた。

 そんな折、中華SNSのWeiboにて、Shanling公式がその時点では未だ発売前だったM7について解説している記事を読む機会を得て、…………一頻りソレを読み下した後、我乍ら信じ難い事に、何と改めてM7の購入を固く決意してしまったのである! えぇ……
 決め手になったのは「M7がシングルエンド(SE)出力にも拘って設計されている」事が分かったから。何でもメーカー曰く、SE出力のニーズはマニア層からも何だかんだ言って根強く残ってるらしく、M7はSEでも十分な出力を稼げるようにしたらしい。
 個人的に、ヘッドフォン用のバランス出力は「プロ用のインターフェースでは先ず使われていない」事がずーっと引っ掛かっており、やたらとバランス出力を重視して持ち上げる最近の風潮はあんま好きじゃなかったりする。愛機ADI-2 DAC FSのヘッドフォン出力はSEのみだけど、決して低出力ではないし解像感が低いワケでもないしねー。むしろ悉く逆まである。


 ところでShanlingは此処最近にM6 Ultraという、AK4493SEQ*4なんて実に突き抜けたDAC構成のDAPを発表している。まー多分、コイツは完全にバランス出力へ傾倒した機種と見て間違い無いだろう。
 M7と比較してRAMとストレージ、出力が少々減っているものの、SoCとOS、ディスプレイ解像度は据え置きで、DACの御蔭かスタミナはM7より優秀、って塩梅。M7よりもなんぼか安価ながらスペックは決して悪く無く、上述したWeiboの記事見る迄は「ほーん、んじゃM6 Ultra出るの待っとるかー」と割かし本気で考えてた。
 だがM7がSE出力にも手を抜いてない事を知った後だと、M6 UltraのAK4493SEQ*4というバランス出力特化なDAC構成がやり過ぎに見えてしまった。4.4㎜バランスだけでなくSE出力も使い込むなら、クアッドDACなんて大袈裟なシロモノよりもES9038Pro*1でシンプルに纏めたM7の方が適切なのでは?、と思い直した次第。

 他、M6 Ultra以外でM7と天秤に掛けた機種として、嘗てPHPAで名を馳せたiBassoのDX240が挙げられる。昨年末?くらいに国内発売されたDAPで、DACに何とShanling M7と同じESSのES9038Proを搭載していたり。尤も、生憎とこっちは電流出力ではなさそうだけど。
 スペック的にはM7から露骨に見劣りする部分は無く、別売の4.4mm対応アンプモジュール込みでも精々約135kとM7より大分値を落とせたのだが、どうもiBassoのDAPはアンプ等「音」に関する部分の作り込みは良くてもソフトウェアの出来がイマイチな感じで、ともすればUSBデジタル出力でトランスポート運用する可能性がある自分の環境では、既にM3Xで使い心地を把握しているShanling製品の方が良さそうだな、と考えた次第。

 そんなこんなで、とうとう100kオーバーのレファレンス級DAPにまで手を出してしまった、という…
 あーあー、やっちまったなー……(遠目

 だが先日購入したSymphonium Audio Heliosを筆頭に、オーバー40kクラスのそれなりにお高価いイヤフォンがドッと増えてしまった今、Shanling M3Xというポータブル環境はIEMから見て役不足気味と言うか、ボトルネックになっている感が拭えなかったのよねー。特にHeliosは確実にそう。
 一応、自分はADI-2 DAC FSにUSB PDトリガーケーブルとモバイルバッテリーを組合わせる事でトランスポータブル化して運用してはいるが、このやり方はぶっちゃけバッテリー管理が煩雑且つあくまでも「設置場所をコンセントに縛られず自由に変えられる」だけに過ぎない。故に、ADI-2 DAC FSに匹敵するレベルのレファレンス級ポータブル環境をゆくゆくは整えてしまいたい、と長らく思っていたのだ。

 そんなワケで購入を決断したShanling M7だが、その代わりに一つ下取交換という形で手放したモノがある。
 M3Xを入手するまではメインDAPとして、M3Xの購入後はデジタルトランスポート兼旧機種向けSE出力用DAPとして活用していた、Hidizs AP80である。
 AP80を手放すに至った要因は以下の通り。

・M3Xをデジタルトランスポートとしても使い始めてしまった
・非Android端末故に楽曲管理等端末内ファイル操作を単体で完結出来ないのが不便
・旧機種の使用頻度がずっと低空飛行状態

 嘗ては「DAPにAndroid OSなんて音質考えたら無用の長物やろ~?」と高を括っていたハズが、M3Xを使い込む内にAndroid OS端末ならではの強みを散々実感しまくってしまい、逆に非Android OSなDAPを使う気がどんどん失せてきてしまったのだから人間分からんもんである。
 WiFiファイル共有による楽曲の追加、ライブラリのディレクトリ変更、プレイリストの生ファイル直接編集等、Android OS搭載機はそれ自体が簡易的なパソコンめいて使える以上、非Android OS機よりも自由度が圧倒的に高い。利便性がケタ違いなのだ。

 折しも、某店でM7に対し「下取交換で10k値引き!」キャンペーンが未だ実施されており、仮にAP80が満額で買い取りされれば、累計で16k近くもM7の値を下げる事が可能だった。
 ならば、ここらでいっそ使用機会がめっきり減りまくってたAP80を潔く手放してしまって、代わりにM7を少しでも安く買ってしまおう、と思ったワケ。幸い、丁寧に使っていた甲斐あってAP80の状態良好だったしねー。


 さて。
 いつも通り前置きが長くなってしまったが、そろそろ本題――M7の使用感、雑感について記してみようかと。

 此処でM7のスペックについておさらいすると、

・OS:Android 10
・SoC:Qualcomm Snapdragon 665
・RAM:6GB
・Storage:128GB+microSD
・Display:5inch, 1920*1080, by SHARP
・Battery:7000mAh
・Bluetooth:5.0
・Weight:320g

・DAC:ESS ES9038Pro in current-mode
・Output:3.5㎜ single ended+4.4mm balanced
・Power:400mW/32ohm(SE)+900mW/32ohm(BAL)
・Output Impedance:<1ohm
・Play Time:10h(SE)+8.5h(BAL)

 DAP以前にAndroid OS端末として見ても決して悪くは無いスペックだろう。無論、DAPの範疇で考えれば現行トップクラスなのは間違い無い。
 一つ「……んんん????」と違和感を覚えそうなのは、7000mAhという大容量バッテリーを積んでるにも関わらず、再生時間がシングルエンドですら10時間止まりなトコか。ES9038Proの電流出力モードが如何に難儀なシロモノかよく分かる部分。
 ……よくよく考えると、回路設計に於ける制約がコンセント接続前提な据置用機器の比では無いポータブル機器で、敢えて電力ドカ食いするES9038Proの電流出力を「大容量バッテリーや回路に高級コンデンサ使ってフォローして」動作させるって、発想が最早脳筋と言うかぶっちゃけイイ具合にイカレてると思うんだが、そこんトコどーなんよShanlingさん?(※褒めてます

 閑話休題。
 で、購入店から届いたM7を箱出ししてびっくりしたのがそのパッケージング。別に本革とか使ってるワケじゃ無いにしても、シュリンク(ビニール)破いて先ず初めに触れる外箱はホログラムでキラッキラ、外箱から少しはみ出している内箱は合皮っぽい装丁が為されており、「成程、高級感……(苦笑」と感心するやら表現に困るやら。
 観音開きになっている内箱の、正面向かって左側にM7が収まっており、緩衝材のポリウレタン?に確り嵌り込んでいるのを抜き出して手に取ってみると、画面の面積こそスマホより小さいものの、重みはそれらを上回る感じ。重量感……!

 電源を投入してみるとバッテリーが既に八割あったので、先ずは保護フィルムの貼り替えやmicroSDの支度、Android OSの設定やUAPPを筆頭によく使うアプリのインストール等、諸々の準備をキッチリ終わらせて、愛機であるM3Xとの聴き比べを早速実行してみた。
 使用イヤフォンはすっかり我がレファレンスの座に納まって久しいSymphonium Audio Helios。勿論4.4mm接続で。

 一般的に、オーディオ機器は出口(イヤフォン・ヘッドフォン・スピーカー)から上流(アンプ・DAC・ケーブル・電源・etc...)へ向かうに従って実際の出音に与える影響が小さくなって行く、と言われる。故に、聞こえ方を大きく変えたいなら出口であるイヤフォンやヘッドフォン自体を変える事が求められ、ブラッシュアップ的な変化を求めるならアンプやDAC、ケーブル等上流への投資が必要になる。
 率直な話、DAPから据置なら兎も角、同じDAPの範疇でなら其処迄大きな変化はまあ無いだろうなー、とタカを括っていたのだが、……M3Xと聴き比べたM7の音は、そんな考えを「おめぇ馬鹿言ってんじゃねぇよ」と軽く一蹴してしまうくらいのインパクトがあった。

 M7とM3Xの音を比較して最も分かり易いのは、何と言っても低音の鳴りの違いだろう。M7の低音は非常に重厚な響き方で、何と言うか、「凄味」の様なモノを伴っている。それでいて重苦しさが其程感じられず、嫌気が無い辺りに「ぁ、やべぇコレは格が違うわ…」と思わされたっつーか。
 この辺分かり易いのは「大編成のオーケストラ」や「FiiO FD5」を聞いた時。M3Xだと前者はかな~り薄味で迫力に欠け、後者は低域の強さもとい重苦しさが目立って聞き疲れ易かった。ところがM7を使うと、前者は低域成分がもう一段下から確りどっしり響いてきて、音の広がり――所謂「音場感」を強く意識し、後者は低音に制動が効いているのか、「ズドンシャリ」と揶揄されるFD5の音で聞き疲れが起きない、という不思議な現象を体験した。
 じゃあM7は低域寄りの鳴らし方なのか、と思うだろうが、個人的にはNO。確かに低音の重厚さを先ず真っ先に強く意識したものの、その後も聴き込んでみた感じ、中域~高域についてもより骨太というか、低域に隠れる事無く「朗々と」鳴り響くので、低域寄りという印象は其程無い。それどころか、むしろM3Xに対するM7の、その駆動力の強靭さを実感させられたくらいで。
 一例として、手持ちのIEMの中では何方かと言えば中域~高域に振ったバランスの「Unique Melody 3D Terminator」について、M3Xで鳴らすと元気さを感じられる良い意味で「粗い」調子の音が、M7では粗さが抜けて解像感が一段階向上したような風情に変貌したり。それでいて元々のUM 3DTの音色を潰してはおらず、「嗚呼、上流の明確なアップグレードって、こういうものなんだなあ……」としみじみ実感してしまった。

 此処迄で「お前聴き比べにはHelios使ってたんじゃないのかよ?!」と思われそうなので、ちゃんとその辺にも言及すると、…………M7で聞くHeliosは、正に自環境に於ける最強レベルの音質を誇っていた。
 実は、M3XでHeliosを聞いていて時折「……やっぱモニターライクな音色だからか、耳の調子次第では薄く軽く聞こえる事があるなー」なんて思う事があったのだが、M7とHeliosを組み合わせると、M7の骨太で重厚な鳴らし方がその辺を上手く補ってくれて、非常にバランスの良い音を味わえるようになった。もう向かう所敵無しである。
 此処でふと思い出されたのが、Heliosを変換アダプタ嚙ませてADI-2 DAC FSに繋いで使った時の記憶。M3X使用時と異なり、低域により「力感」めいたモノを感じて「あれ、Heliosってこんなガツンと来る鳴り方してたっけ?」と首を傾げ、まあ据置だし駆動力違うもんなー、と軽く流したが、……つまりM7の駆動力は、据え置き機器に迫り得るレベルのモノを備えている、って事になるのだろうか?? いやー、まさかねー……(遠目

 駆動力繫がりで音量の取れ高について言及すると、M3XのハイゲインがM7ではローゲイン相当。と言う事は即ち、M7のミッド~ハイゲインはそれ以上の出力って事になる。一見鳴らし易そうなスペックとは裏腹に実際はむっちゃ鳴り難いHeliosだが、M3Xだとハイゲインの60~67辺りが必要だったのに対し、M7はローゲインの60そこそこ、ミッドゲインならもう少し下の50辺りで十分大音量を取れる。
 地味に感心したのはハイゲインに切り替えた際の挙動で、爆音防止の為だろうが自動で音量が10/100へ下がるようになってる模様。人によっては「面倒な、勝手な真似しよって…」なんて思うかもしれないが、個人的には難聴リスク回避の方がよっぽど大事なのでこういう気遣いは有難い限り。M7のハイゲインって900mW/32ohmもあるしね。

 此処迄「音質良し、出力強し」と流石のクオリティなM7だが、弱点が全く無い訳では無い。
 最大の弱点にして懸念点は、――――発熱。

 とかく音楽再生時の発熱量が尋常ではなく、あくまでも体感だが、最高で摂氏40度半ば迄筐体が熱くなる。M3Xは充電時なら兎も角音楽再生時の発熱はほぼ無かった事を考えると、雲泥の差と言う他無い。冬場ならホッカイロにでもなりそうな勢いと言えば想像し易いだろうか?
 尤も、初めの方で述べたメーカー公式のWeiboを読み下すに、ShanlingはES9038Proを電流出力で動かす際の電力消費や発熱量を、全て承知の上でM7を設計してるっぽいので、必要以上に怖がる必要は無いかもしれんが。でもLi-Poバッテリーの熱劣化とか大丈夫なんですかね実際問題……(一抹の不安

 その他、触って/使っていて感じた/思った事を箇条書くと、

・スナドラ665+6GB RAMの御蔭でレスポンス良好
・7000mAhと大容量な割に充電速度早め、その上低発熱
・フットプリントが一昔前のスマホ並みでDAPとしては嵩が張る
・厚みがスマホを二つ重ねたくらいあってDAPとしては嵩(ry
・体積と重量の両面でポケッタブルとは言えず、価格的に外出は怖過ぎ
・室内でのトランスポータブルデバイス、という使い方が妥当か

 総じて、ともすれば据え置きに肉薄し得る音質をよくぞこのサイズへ押し込んだな、と。自分はものぐさで貧乏性且つチキン故に、こんな「デカい・重い・高価い」と三拍子揃ったブツをとても外へ持ち出す気にはなれんが、例え自宅内限定であっても、M7とお気に入りのIEMさえあれば何処でも上質なリスニングルームと化せるのはめちゃ便利。
 先述したようにADI-2 DAC FSもバッテリー駆動させりゃトランスポータブル化出来るが、ソレは「可搬性が有る」というだけで、「携帯性」を考えるとM7の方が圧倒的にコンパクトでとても比較にならんのは言わずもがな。勿論、ADI-2 DAC FSはM7よりも更に高出力でDT1990Proの様なハイインピーダンスのオーバーヘッドモニターですら軽々ドライブさせる出力を持つが、そんなもんIEM相手には無用の長物でしか無いのですよ。(遠目
 また、そうやって考えると現在の日本円で160kオーバーという価格にも割と納得出来る。自分がADI-2 DAC FSを購入した際の価格は130k弱だったが、ADI-2 DAC FSにバッテリーをくっつけた上で体積をDAPレベルまでシェイプアップしたとすれば、そりゃ160kしたってしゃーないわな……、としか。

 本記事投稿時点でオーバー100kクラスなDAPの内、代表的と言うか入手性が安定していて余り古過ぎないモノを列挙すると、

・Sony NW-WM1AM2(150k)
・Sony NW-WM1ZM2(360k)
・FiiO M11 Plus ESS(110k)
・FiiO M17(270k)
・iBasso DX240(110k)/AMP8 MK2(27k)
・iBasso DX320(220k)
・New HiBy R6(105k)
・HiBy RS6(200k)
・Cayin N8ii(440k)
・Astell&Kern SR25 MK2(100k)
・Astell&Kern SE180 SEM1(150k)
・Astell&Kern KANN MAX(180k)
・Astell&Kern SP2000T(300k)

 ……ザッとこんなトコか。十年程前、未だポータブルオーディオの最先端が「iPodのDockケーブルからライン出力してPHPA繋いで……」なんて感じだった頃を一応知ってる身としては、何かもう市場が青天井極まっててコメントに困る状況ですねえ……(乾笑

 M7は160kオーバーもとい170kってのが厳密な価格だが、列挙したDAP達と比較してコスパに優れたモデルではないかなー。トータルバランスが一番整ってる気がする。HiBy RS6はちょっと前まで165kで売っててM7とは良いライバルだったが、恐らくは円安による価格改定で値が跳ね上がってしまったのが悲しい。
 ES9038Proを電流出力でぶん回す、という本来据え置きでやるべき真似をポータブルで強引にやっちゃった点がM7のユニークさと他に無い強みであり、一方で其処に起因するスタミナの悪さと甚大な発熱は明確な弱みである。良くも悪くも、「ES9038Proを電流出力で使っている」事をどう捉えるかがカギだろう。無論、自分は魅力を見出してM7を買ったクチだが。

 個人的見解として、Sonyは出力が貧弱且つイマドキのAndroid端末にしてはスペック不足(専らCPUと画面解像度)、Cayinはフラッグシップで超高価いN8iiの下位に構成古いN6iiしかない、ってのがネックかなー。後者については、なまじ他のメーカーがエントリー(~70k)からミッドレンジ(~200k)、ハイエンド(200k~)まで、直近のラインアップだけで確り取り揃えてる分、余計に不足が目立つ。
 更に言うと、ヘッドフォンやイヤフォン、DAPやHPAと言ったパーソナルオーディオは100kを超えた辺りから段々コスパが悪くなっていって、200kを越す頃には最早オカルトじみてくる印象。なので、機器一つ当たりの投資額は200k以内に留める方が無難。
 その前提で先程列挙したDAP達をもう一度振り返ると、M11 Plus ESS・DX240(+AMP8 MK2)・New HiBy R6・HiBy RS6・SR25 MK2・SE180(SEM1)・KANN MAX、そして今回自分がIYHしたM7が、100k~200kの価格帯(ミッドレンジ中位~上位)に於ける狙い目の機種だろう。……今になってみれば、価格改定前のRS6は相当お買い得だったかも?
 しかしSonyはAM2とZM2に何故もっとマトモなSoCとディスプレイを搭載させなかったのか……ディスプレイは辛うじて大目に見てもSoCは擁護不可過ぎる……


 やたら長くなり過ぎたが、結論としてはシンプルに「M7デカいし熱いけど音良いよ!」って次第。
 真逆自分がオーバー100kな、レファレンスクラスと言って差し支え無いレベルのDAPを手にする日が来るとは思っていなかったが、いざ使い始めると「ぁ゛ーやべぇ、コレもう戻れねぇー……(恍惚顔」とかなってんだからホント現金なもんよなあ…


 ところで、今回奮発してM7を購入したはいいが、実のところ購入後にちょっとしたトラブルに見舞われてしまい、本格的に使い込めるようになったのは購入から一週間程経ってからだったりする。……呟き帳では既に触れているが、初期不良の洗礼をモロに食らってしまったのだ。
 具体的な不良内容は省くが、最初に購入店から届いた一台目、代理店に問い合わせて交換してもらった二台目、何方にも同様の不良が確認されてしまい、ラストチャンスとなる二度目の交換――つまり三台目にしてようやっと、(現時点では)何の異常も確認されない正常なM7を手に入れるに至った。

 初っ端の起動時に不良を確認してすぐに返送した二台目はさておき、少なくとも一台目の音声出力には何の問題も無かったので、不良に目を瞑れば使えない事も無かったが…………そうは言っても、如何せん160kという(一般人目線で言えば)バカ高価いブツを購入した以上、全く異常無い完璧な個体を欲するのが普通の感覚だろう。
 幸運だったのは、Shanling製品の国内代理店である株式会社MUSINが、此方の問い合わせに対して丁寧且つ真面目に対応してくれたこと。サプライヤー側からすれば昨今は何ともやり辛かろう初期不良対応、しかも100kオーバーという高額商品で、アレ程真摯に応対してくれるとはちょっと予想出来なかった。本当に有難い限りである…


 我乍ら遂に、据え置きとポータブルの両方でレファレンス級の上流環境を持ってしまったワケだが、…………もし仮に、今後また何らかの音響機器を購入するとして、その最有力は――――GRADOになるかも。
 いやー一度は聴いてみたいのよねあの民芸品。特に最新鋭のRS1xは値上げ前の100k弱って価格が未だ続いてたらIYHしてた可能性大。メープルとヘンプとココボロのトライウッドハウジングとかワケ分かんなくて面白そうじゃん?
 ただ、同時発売されてるRS2xとの分かり易い比較が国内は元より海外サイト探しても全然見当たらないのがなー……RS1eとRS2eの関係性がx世代でも継承されてるなら、RS2xの方がGRADOのハウスサウンドに近いっぽいのだが、はてさて。

 他方、オーバーヘッドではなくIEMなら、使ってみたいのはCampfire Audioの機種。特にAndromedaとか。
 まー彼処は高級IEMの定番メーカーってイメージ強いしねー。MW10はいつぞやの安売り時に買っときゃ良かったかなあ、と実は少々後悔気味。その一方、最近発売された3BA機Holoceneが「リトルAndromeda」とか言われてて往年の雰囲気を残してるとか何とか。ほほぅ。

 国内メーカーなら、未だにビクター(JVC)のヘッドフォン・イヤフォンを使った経験無いので、何れ触れてみたいとは思ってるのよな。特にWOODシリーズ。HA-SW01とか今微妙に安くなってるけど、密閉型オーバーヘッドをこれ以上増やすのはどーなの?、と必死に自制中。
 そもそもオーバーヘッド買い足すなら開放型の高級機が欲しいのですよ。だからこそGRADOになるかも、とか言ったワケでして。Dropで往年の名機HD650(の廉価パッケージ品HD6XX)買うのも考えたが、そっちより未だ未体験のGRADOサウンドの方がそそられてしまう。

 さーてはて、次は果たして何をIYHすることになるのやら…

  

雑記

<音を「表現する」と言う事>

 音響関連の文言を記す上で、少し気を付けていることがある。
 「言葉」――もとい、音に対する「表現」である。

 よく、ヘッドフォンやイヤフォン、HPAやDACの音質を表現する際に、「解像度」「分解能」「粒立ち」「沈み込み」……といった表現を目にしたことはないだろうか?
 個人的に、「音」というモノを表現するにあたってこの辺の表現を使うのが余り好きではなく、割と意図的に特定の表現しか使わないようにしていたり。

 特に、「解像度」や「分解能」は何方かと言えば光学機器系のワードで、音響機器に此等の言葉を持ち出す事にどうにも違和感を拭えないのよなあ。「度」とか「能」とか、まるで数値的に定量化出来るかの如く自分が聞いている「音」を表すのってどうなの??、と。
 そうでなくとも、例えば「沈み込み」は低域表現として未だ分からんでもないが、「粒立ち」なんかは正直「ソレどういう感覚の事なの……??」と思ってしまうっつーか。

 じゃあお前は音を表現する際にどういう文言を持ち出してるんだという話だが、意識して繰り返し使っているフレーズで思い当たるものと言えば、

・解像感
 解像「度」ではなく「感」。所謂「音像の細かさ」ってのは定量的に評価し得る指標だの何だのが有るワケじゃ無いので、あくまでもそういう「感覚」だよ、と。
 敢えて冗長に言うなら、「キメ細かい」「鳴らし方が緻密」「隅々まで見通せる」なんて辺りが類似表現になるだろうか。「曇ったり籠もったりしていない」ってのもソレっぽいが、コレは後述する「明瞭感」とも関わってくるんじゃないかねー。

・分離感
 例えば音響機器で音楽を聞く際、多種多様な楽器が用いられる大編成のクラシックを鳴らすとして、それでも機器が再生する音は「録音された全ての音の合成音」という「一つの音波」なのが実態である。例え機器から聞こえる音が「きちんとパート毎に分かれて聞こえる」としても、それはあくまでそういう「感覚」に過ぎない。
 故に分離「感」。一つの音波の中で、元々の音楽の構成要素達をどれだけ「分け離して感じられる」か。

・音像
 音を聞いて、ソレをビジュアル的なイメージとして頭の中で変換・描写・表現したモノ……ってトコだろうか? 正直、大分色々な要素が組み合わさった表現で、結構あやふやな言い方なのは否めない。
 強いて言えば、ある意味「解像感」の類似表現。音像が細かい/粗い=解像感が高い/低い、みたいな。後述する「明瞭感」「繊細さ」にも同じ事言えるけど。

・明瞭感
 音の明るさ。何となくだが、基本的に最低域~中低域が「強い」と「暗い音」、逆に「弱い」と「明るい音」として感じる気がする。
 また、中域それ自体の強弱も関係ありそう。中域が強い=明るい、中域が弱い=暗い。音楽って中域に主旋律の帯域が集中しているので、中域の強弱は支配力強いはず。
 「音がハッキリクッキリしているか」でもいいが、こっちだと解像感的なニュアンスも含まれると思う。ハッキリクッキリした音=解像感が高く明るい音。

・繊細さ
 中域~高域の音に対して使用頻度高め。特に高域。耳を突くような刺激が少なく、上擦ったりせず綺麗に聞こえると「繊細な音 or 鳴らし方」だなー、と。解像感も関わるが、そっちよりは「刺激の有無」に左右され易い言い回し。
 対になるのは「荒さ」。刺さり気味で刺激が強い音は「荒っぽい音」に感じる。「粗い」だと逆に解像感的な意味合いが強い。粗い=荒く、解像感が低い。

・滑らかさ
 「粗い」の対義。解像感が高く、荒っぽさが少ないと「滑らかな音」。刺激の有無より解像感の方に寄せた感じの言い方。中域に対してよく使ってるかも。
 歯擦音や破裂音に由来する高域辺りの刺激は、過剰でなければ良いアクセントになる要素なので、刺さりがあるからと言って一概に荒い or 粗いとは言い切れないのが難しいところ。高域だけに左右される表現ではない=中域も関与している、と言うか。

・締まり/緩さ(タイト/ブーミー)
 低域に対して使う。個人的に低音を表現する時は「起こり(音の始まり)」と「引き(残響)」が大事だと思っていて、「締まり/緩さ」は「引き」に振ったニュアンスに感じる。
 締まりの良い、緩くない音(タイトな、ブーミーでない)音=引きに優れた(残響の収束が早い)音。大抵の場合、引きの良い低音は起こり(アタック感)の確かさもちゃんと伴っている事が多い。
 尚、「緩さ」は時折解像感(の低さ)を表す為に使うこともしばしば。詳しくは後述。

・量感
 「音の量」が多いか少ないか。「音の強弱」とは異なるのがミソ。

・丁寧さ
 対義は「雑さ」。音を音像として考えた時に、「描写が整っている」と感じる際思い浮かぶフレーズ。なので解像感が絡む、ちょっとカバー範囲の広い言い回しではある。
 具体的に解体するなら、「繊細さ」と「滑らかさ」、ついでに「締まり」の合成表現、的な。刺激が少なく、解像感高めで荒くなく、更に締まりのある適度な低音まで揃っていると、「丁寧な音 or 鳴らし方」って評価になる、っつーか。必然、帯域バランスの整った音が当て嵌まり易い。
 ただ、何方かと言えば中域~高域に対して関連度強め。つまり概ね「繊細で滑らか」だと「丁寧」に感じている、気がする。

・緩さ/鈍さ
 「解像感」の類義。それも専ら「解像感の低さ」を表すという変わり種。
 「鈍い」はネガティブな意味合いが強いのに対し、「緩い」は何方かと言えばポジティブ。解像感が弱みになっていない面白みがあれば「緩い」、完全に解像感の低さが足を引っ張っているようなら「鈍い」ってイメージ。

・質感
 単純な大小多少強弱明暗ではなく、包括的な音の「性質」。「鳴り方の傾向」と言い換えても良いかも。

・音場感
 …………巷でよく引き合いに出される文言だが、実は個人的に一番苦手な表現。ぶっちゃけ未だにサッパリ理解不能な感覚の一つ。ヘッドフォンですら基本的に、何だかんだ耳の傍らで鳴ってるようにしか感じられないというのに、況んや外耳孔にブッ挿して使うIEMをば、と言うね……
 まあそれでも、最近だとHelios宜しく「オーバーヘッドヘッドフォンめいて、音像を少し引いた所から捉えるような」なんて感じ方をすることもあるので、全く分かってないワケじゃないと思いたい、が……(遠目


 一頻りざっと書き出してみたが、…………コレ正直な話お前も似たり寄ったりじゃね??、的な……(引攣笑
 でも音の善し悪しって定量化出来ないもんなー。なるべく感じたままを言語化しようとして、自分の場合はこーゆー語彙に収束していってしまった、としか言い様無いのよねえ…

 しかし改めて普段直感的に使っている表現を分析してみると、めっちゃ意味にダブりが多くて草生えますよ!(伏目
 もう大体解像感ばっかな辺りに、我乍ら何を重視してオーディオを楽しんでるかがよく表れてますなあ…


 ……実際の所、雑感を書き連ねている時は完全にフィーリングで此等の表現をテキトーに使いまくっているので、上述の文言が本当に今回說明した通りに使われているとは限りません!(平謝
 故に「お前この言葉の使い方こないだの説明と食い違ってんじゃねーか!?」という至極尤もなツッコミは、出来れば切に御容赦頂けると助かります……(DOGEZA



<手持ちの主要IEM聴き比べ>

 30k以上する(一般人目線的に)かなりお高価いIEMが矢鱈増えてしまった今日此頃。
 折角なので、此処等で一度主要機を一挙に聴き比べてみようかと。

 クランケは以下の通り。

・DUNU Studio SA6:3way6BA(Low2,Mid2,High2)
・Unique Melody 3D Terminator:2way3DD(Low2,Mid/High1)
・FiiO FD5:1DD
・Thieaudio Oracle:3wayTribrid(Low1DD,Mid2BA,High2EST)
・CHIKYU-SEKAI[地球世界] 5/COSMOS:3way5BA(Low2,Mid/High2,UltraHigh1)
・Symphonium Audio Helios:4way4BA
・RAPTGO HOOK-X:Planner Magnetic+Piezoelectric

 再生機器はShanling M3X。出力は4.4mm。UM 3DTと5/COSMOSは純正ケーブルが3.5mmなのでリケ済。

・Helios
【イヤーピース:デフォルト(AZLA SednaEarfit Mサイズ), ケーブル:デフォルト】
 「解像感の暴力」という一言が思い浮かぶ鳴りっぷり。個人的に、若干引いたような音場感も相俟ってイヤフォンというよりオーバーヘッドのモニターヘッドフォンを聞いているような感覚に陥る。
 音がハッキリクッキリしている、って意味で非常に明瞭。兎に角滑らかで丁寧。上から下まで万遍無くバランス良く鳴る。大音量でも高音が刺さらず繊細で、低音が暑苦しくなく締まっていて、その上中域が出しゃばらない。優等生過ぎ。正にレファレンス。
 オーバーヘッドモニターをレファレンスとしている身からすれば、好みドンピシャで特にケチ付けるトコ思い付かん音だが、強いて言えば「味付けらしい味付けが余り無い」事が人によってはダメかも? 素っ気無いと言うか、無味乾燥と言うか、そういうマイナスイメージを持つ人いるやもしれんし。
 一見簡単に駆動出来そうなカタログスペックとは裏腹に、バランス出力でも結構ボリューム上げないと本領発揮しないので注意。M3Xの4.4mmバランスでハイゲインの60まで上げさせられたのは此奴が初めてである。

・Oracle
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:デフォルト】
 解像感は今回比較した機種の中だとHeliosに次ぐレベル。Heliosがモニターに振り切った音なら、Oracleはモニターでもちょっとリスニングに寄せたタイプの音。
 明瞭でバランスの良い鳴り方だが、Heliosよりも高域がやや細くシャリ付く他、中低域にもう少し量感があって「味付け」っぽいモノを感じる。音場感は普通。そこそこ鳴り辛いがHelios程ではない。
 Heliosに対する明確なアドバンテージは装着感。外耳孔周辺にちゃんと沿ってくれるので安定感が全然違う。

・5/COSMOS
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:KBEAR Limpid Pro KBX4913】
 モニター的な中庸さを感じさせるHelios・Oracleと比較して、明らかに独自路線を突っ走っている。透明感ある見た目からは想像し難い音色に面食らう事請け合い。
 解像感は良好で、中域の滑らかさも中々のもの。他方、高域が些か控えめ且つ中域より下の量感が少々多く、全体的に鳴りが低めで重め。幸い、低域に中域~高域がマスクされているような感覚は無い。
 シェルはコンパクトに纏まっており装着感はそこそこ。音圧が非常に稼ぎ易く、M3Xの4.4mmバランス出力ならローゲインの33辺りで十分大音量。109dB/7.7ohmという高能率低抵抗な設計の賜物だが、一方でリケーブルにより音が変わり易い可能性が高い。それがマルチBA機ならではの不安定なインピーダンス特性によるものどうかは定かで無いが、少なくとも付属ケーブルと同じ純銀線のKBX4913より、銅線主体であるNICEHCK SpaceCloud(単結晶銅と銀メッキ銅のミックス)の方が、鳴りの低さや重さが緩和されるような感覚があった。

・SA6
【イヤーピース:SpinFit CP145 Mサイズ, ケーブル:デフォルト】
【音質変更スイッチ:OFF】
 中域より上がやや粗く、低域の量感が僅かに少ない。5/COSMOSとは逆に高めで軽め。明るい鳴り方で中域が目立つので、ボーカルや主旋律(を担当する楽器)にフォーカスを定めて聴き込むなら最適。

【音質変更スイッチ:ON】
 中域〜高域の質感はほぼそのままに低域の量感が増し、鳴り方が落ち着いて「今時の、低域が確り鳴るモニター」的バランスへ変化。汎用性を取るなら此方。

 「普段のリスニング位置から音量を徐々に上げていって、最初に気に障り始めた部分がその機器の弱点」とはある有名レビュアーの談だが、それで言えばHeliosはほぼ気になる部分が無く、Oracleは高域の細いシャリ付き、5/COSMOSは中域以下の量感がそれぞれ気になり易いのに対し、SA6で真っ先に引っ掛かるのは高域の荒っぽさ(OFF)/低域の量感(ON)。
 総合的な解像感はそこそこ。スイッチ位置問わず明瞭感が優秀。CIEMライクなシルエットだが装着感はOracleに劣る。音量の取れ易さは程々。

・UM 3DT
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:NICEHCK Oalloy】
 2way3DDという変態構成から低域マシマシな音を想定したら大間違い。むしろフラットに近い真っ当なバランスで、下手すりゃモニター的かも。
 粗さはあるがあまり荒っぽくはなく、雑でなく「元気」と思わせる鳴りっぷり。異論を承知で形容するなら「解像感を落とす代わりに潑溂さを与えたHelios」って感じ。DDならではの力感――空気を「叩く」感覚や、嫌気を覚えない程度の刺激が好ましい。
 感度はSA6と同程度。SA6よりも耳を突かないので音量を上げ易い。パッと見、結構嵩が張っているシェルは実際に装着してみると外耳孔周辺への収まりが良く、安定性高め。流石はカスタムIEMの老舗。

・FiiO FD5
【イヤーピース:acoustune AET07 Mサイズ, ケーブル:KBEAR Limpid Pro KBX4913】
 「ズドンシャリ」。純銀線にリケして多少マシになったはずだがそれでも未だに低域の主張がすっごい。正にベースヘッズ御用達ホン。
 面白いのは低音の量感が凄い故に全体として低く重~い鳴りであるにも関わらず、中域~高域が埋もれてなくて解像感がちゃんと在ること。流石のハイレゾ世代と言うか。
 ベリリウムコーティングしたDLC振動板使ってるだけあって、中域〜高域はレスポンスの良い音を鳴らす。低域も締まりの無い音ではなく、基本的には重厚で良質。ただその重厚感のせいでかなり聞き疲れ易い。普段モニター的なバランスを尊んでる身としてはやはり低域過剰気味。
 筐体はクロムメッキされたステンレスで重量感たっぷり。傷付きやすいので取り扱い注意。装着感は普通。悪くは無い。5/COSMOS程では無いが小音量でも十分な音圧を確保可。

・RAPTGO HOOK-X
【イヤーピース:付属黒軸Mサイズ(SpinFitの亜種?), ケーブル:デフォルト】
 平面駆動にピエゾも積んでしかも開放型、とイロモノまっしぐらな変態機。音作りもまさに奇特――なブツを期待していると肩透かし食らう可能性アリ。
 ちょっと低域寄りな鳴らし方でバランスは5/COSMOSやFD5に近い。しかし開放型故に低音の圧迫感が薄く、量感の豊かさと負担の少なさを両立しているのは巧い。加えてピエゾドライバの効果で高域に僅かだが粗く刺激があり、少々引っ込んだ中域と合わさって独特な音色を作っている。断じてモニター的では無いが、意外にも分離感に優れていて構成要素の聞き分けが容易。
 率直な話解像感は甘めで、明瞭感は普通。繊細さや滑らかさ、丁寧さも其程。だが不思議と聞き易く、それでいて退屈では無いという中々聞いた事の無い音。ユニークだがエキセントリックではなく、派手さは無くて良い意味で地味。
 何気に装着感が優秀。挿し込みは比較的浅いが外耳孔周辺への収まりが良い。傾向は全然違うがボリュームの取れ具合と上げ易さがUM 3DTとよく似ている。


・解像感ランキング
 Helios>>Oracle>5/COSMOS>SA6>UM 3DT≧FD5>HOOK-X

・装着感ランキング
 Oracle=UM 3DT>HOOK-X>SA6=5/COSMOS>FD5>Helios

・帯域バランス分布
【高域寄り】SA6(スイッチOFF)>UM 3DT>Helios(ほぼ【フラット】)>Oracle>SA6(スイッチON)>5/COSMOS>HOOK-X>FD5【低域寄り】

・個人的好み度
 Helios>>>UM 3DT≧HOOK-X>Oracle≧SA6>5/COSMOS>FD5


 ――と、一通り聴き比べた所感が以上の通り。
 Heliosがレファレンスになっているのは最早言う迄も無い。

 最後にランキングやら分布やらで順番付けしてみたのを改めて眺めてみると、レファレンスたるHeliosはさておき、解像感やバランスのフラットさと、好み加減がサッパリ一致しないのが我が事ながら何とも面白いねえ、と。
 潑溂として元気なUM 3DTと、解像感甘いけど色々と面白味の多いHOOK-Xが好み上位に来てる辺り、ヘンテコな構成が好きになりやすいんかしらん自分? でもこの二機種って嫌な耳の突き方してこないから滅法聞き易いんよな…

 にしても、以前はSA6やOracleがレファレンスだったハズがあまりにも感想変わり過ぎてて一体全体何が起きたん????、みたいな。いやどー考えてもHeliosのせいなんだけどね…
 約120kを奮発した価値はあったと言うか、Heliosの前ではSA6やOracleですら「モニターないしはフラットバランスになりきれていない」と感じてしまうのは、価格差って残酷……としか言い様が有りんせんのを如何せん。(ぇ
 逆にUM 3DTが急浮上して、更に更に、新参中の新参であるHOOK-Xに好感触覚えちゃうのだから、「レファレンス」の更新ってのは効果デカいなー。音色とか質感とかって大事。



※追記:5/COSMOSのリケーブルによる鳴り方の変化

 今回の記事を公開する前に呟き帳で既に言及しているが、5/COSMOSにAliから仕入れた「NICEHCK CoaxialSir」(※6N 銀箔メッキ単結晶銅線と銀メッキ線を同軸リッツ構造で束ねたミックス線)を挿してみた所、低域寄りで低く重めだった鳴り方がかなり変わった。
 具体的には、ともすれば引っ込み気味だった中域~高域が前に出てきて、ハッキリ響くようになった。相対的に低域が大人しくなり、Limpid Pro KBX4913使用時の音よりもバランスが良くなる、という個人的に好ましい変化を得られた。全体的な明瞭感が明らかに増しており、一段階上の音になっている……気がする。

 正直、CoaxialSir使用時の音であれば上述の帯域バランス分布と好み度の並びが変わってくる。それこそ「Oracleの解像感と低音の量感、SA6の明瞭感を良いトコ取りした」音に近い風情なので、この状態の5/COSMOSなら手持ちでもトップクラスに躍り出かねない。
 いやまあそれでもHeliosとタメ張れるレベルってワケじゃないが……アイツは流石に例外過ぎ。解像感のバケモノ。

 ってなワケでランキング改定。此方↓。

・解像感ランキング
 Helios>>Oracle≧5/COSMOS(with CoaxialSir)>SA6>UM 3DT≧FD5>HOOK-X

・帯域バランス分布
【高域寄り】SA6(スイッチOFF)>UM 3DT>Helios(ほぼ【フラット】)>Oracle>5/COSMOS(with CoaxialSir)≧SA6(スイッチON)>HOOK-X>FD5【低域寄り】

・個人的好み度
 Helios>>>5/COSMOS(with CoaxialSir)≧UM 3DT≧HOOK-X>Oracle≧SA6>FD5

 元々SA6よりも解像感優れてるっぽいのが、CoaxialSirによって低域寄りのバランスを改められた事でOracleに匹敵するレベルまで引き上げられ、随分と聞き心地の良い音を鳴らすように。シャリ付かない高域、明瞭な中域、量感はあれど緩さはない低域、と三拍子揃っていて大変宜しい限り。
 難点はCoaxialSirの取り回し難さ。針金みたいな硬さこそ無いが、とかくコシが強くびょんびょん跳ねるのが厄介。

 因みに5/COSMOS+SpaceCloudもCoaxialSirと似た変化を得られるが、多分後者の方が変化の度合い強め。CoaxialSirは一聴して「ぇ、ちょっと待って何か全然違う…」とびっくりさせられたが、SpaceCloudは其処迄の驚きを得られなかったし。
 SpaceCloudは本体とケーブルで色味が比較的揃うのと、取り回しが未だ悪くないのがメリットか。ま、私的には5/COSMOS with CoaxialSirの見た目気に入ってるけどねー。NICEHCK製品にしてはプラグのデザインが凝っていて全体の質感は概ね良好なんで。