2021/10/17

密閉型モニターヘッドフォン雑感:ADAM AUDIO STUDIO PRO SP-5 ファーストインプレッション

 前回の記事で、Thieaudio Oracle・FiiO FD5(with KBX4913)・Fostex TH610と派手派手に散財した旨を記した折、当初はTH610ではなく密閉型モニターヘッドフォンを見繕う予定だった、と書いていたのだが。

 …………まあ、アレだ。辛抱堪らず、まぁたIYHしてしまった罠。
 もうなるようになれ精神である。(目逸

 しかしながらおかげさまでいよいよ臨時収入を使い果たしてきたので、流石にそろそろ打ち止めである。
 ……そのハズ。いやもういい加減打ち止めなければならん。…………打ち止めたいなあ…………(※フラグ


 そんな訳で遂に仕入れてしまったADAM AUDIO STUDIO PRO SP-5。Powered by ULTRASONEということで、コラボ機ではあるもののコレが自分にとって初のゾネホンになる。
 独ULTRASONEと言えば、今でこそ六桁価格を誇る超高級機「Editionシリーズ」が余りにも有名過ぎるが、かつては「PRO(PROline)シリーズ」や「HFIシリーズ」と言った比較的手頃なモデルも多数取り揃えるヘッドフォンメーカーだった。その他、EditionとPRO(PROline)の間に「Signatureシリーズ」というプロフェッショナル向け?高級機を構えており、コレがつい最近ラインアップを一新したばかりだったり。
 一方のADAM AUDIOは同じくドイツのモニタースピーカーメーカー。要するに、恐らくはSignatureシリーズの筐体・構造をベースに、ADAM AUDIOがチューニングを監修した密閉型モニターヘッドフォンがSP-5、というワケ。

 密閉型モニターの購入候補としては、SP-5以外にAustrian Audio Hi-X55も非常に有力だった。が、海外のf特測定サイトでSP-5とHi-X55を比較してみた所、Hi-X55よりSP-5の方が中域以下の出方が安定しており、また全体的にグラフが綺麗で安定していて何となく好みっぽい塩梅だったので、最終的にSP-5を購入した次第。
 ……おかげで出費が当初の五割増しくらいになっちまったがな!(死魚目

 尚、SP-5のレビューを漁っていた所「中域を改善出来るのでリケーブル推奨」という声を見掛け、オヤイデのHPSC-35HD500/1.3を同時に購入した。
 二つ合わせて御値段怒涛の70k。…………TH610(74k)やATH-WP900(65k)と殆ど変わんねーじゃねーか!!(自己嫌悪


 兎にも角にも取り敢えず試聴感想をば。
 初っ端はXD-05 Plus(with MUSES03*2)+05BL ProにAP80をペアリングし、LDAC飛ばして簡単に使い始めてみた。そんで後日、今度はADI-2 DAC FSで聞いてみた。
 ソースはFLAC(44.1kHz/16bit~192kHz/24bit)・DSD。いつもの通り。

 XD-05 Plusで聞き始めて思ったのは「カラッとした音」。高域から低域までしっかり鳴っており、シンバルの刺さりやドラムのインパクトをちゃんと感じられ、リケの効果もあるだろうがボーカルは引っ込まずにきちんと聞き取れる――――と、一見如何にも情報量豊かで聞き疲れしやすそうだが、意外な程音そのものの負担は少なく疲れ難い。
 よーく聴き込んでみて分かったが、比較的ハウジングが小さめの密閉型であるにも関わらず、かつて所有していたSRH440のような「音が近い」感覚が薄い。それどころか、ドライバーユニットが耳介よりもう一歩二歩離れた位置にあるように感じられた。「カラッとした音」の正体は多分コレ。
 恐らく、この少し不思議な聞かせ方こそがULTRASONEの特許技術「S-Logic」の効果だろう。解像感・分離感・明瞭感・刺激感を十分に感じさせつつも、一歩引いたような音の感触が何ともユニーク。先日購入したTH610も「耳から離れた所で鳴っている」感覚を得られるヘッドフォンだが、TH610が「もっと奥の方までスーッと広がる」ような「遠さ」とすれば、SP-5は「指向性を持った音源を此方に向けた上で、耳からやや離して鳴らしている」ような「距離感」で、よりカチッと正確な風情を伴っている点が異なる。個人的には何方も好ましいが、きっと「モニターヘッドフォン」としてはSP-5の方が正解に近いのだろうな、と。

 んで次はADI-2 DAC FSを使用。変換アダプター噛ませて6.3mmに繋ぎ、始めはローパワーモードで出力した。出力機器のクオリティ差を除けば、概ねXD-05 Plus使用時と同じ聞き心地。どの帯域にも格別凹みを感じず明瞭で、情報量豊富ながら疲れ難く聞き易い。
 ただローパワーでは少し音量を上げ気味(-15.0db辺り)だった。実際SP-5のスペック見ると結構鳴らし難い類(感度95dB・インピーダンス70ohm)なので、一度再生を止めてハイパワーモードに切り替え、爆音予防として事前に音量を絞ってから再生を再開してみた。
 すると、鳴りっぷりが急変して困惑。「メリハリのある音を一歩引いて俯瞰する」ような感じだったのが、その一歩を詰めることでメリハリを最前面に押し出してきたと言うか、兎に角大変アグレッシブな調子に変貌したのである。慌てて更に音量を絞ると鳴りを潜めたが、流石にビビった。
 その後、慎重にボリュームを上げたり下げたり、ADI-2 DAC FSのローパワーとハイパワーを行き来して変化を確認したが、どうやらパワーを引き上げるとそういうキャラクターが現れる御様子。尤も鳴り方が根本的に変わってしまうのではなく、単純に「一歩引いた分を音圧で埋めている」感じで、むしろ「出力機器の力強さを反映している」だけな気がする。

 他、一頻り使っていて特に感心した事として「ステレオ感の強さ」が挙げられる。アンバランス接続専用ながら左右の音の分かれ方が尋常ではなく、左なら左、右なら右とくっきりはっきり鳴らし分ける。ステレオ感だけなら今まで使ってきたヘッドフォン・イヤフォンの中でも断トツと断言出来るレベル。こういう所もモニター機らしいと言うか。

 此処等で以下、音以外の点について。

 見た目は…………世辞にも良いとは言えない。野暮い。ゴツい。しかもプラスチッキー。とは言えそのおかげでゴツさに反してかなり軽量(300g未満!)なので、一長一短か。
 側圧はそこそこあるが、イヤーパッドにそれなりの厚みがあって割と快適。頭頂部の負荷についても、ヘッドバンドのクッションが厚目に出来ている上、今し方述べたように軽量なのでそんな悪くない。総じて結構良い方。ぶっちゃけ意外。

 付属品は二種類のケーブル(6.3mmプラグの長いものと、3.5mmプラグの短いもの)と、セミハードケース。以上。スペアのイヤーパッドなんかは付属せず。ケースは同時購入したHPSC-35HD500/1.3をヘッドフォンに挿したまま収納出来るくらいにはゆとりがあって地味に有難い。
 付属ケーブルはホントにフツーとしか言い様の無い質感のケーブルで、HPSC-35HD500/1.3と比較するのが(オヤイデに)失礼な感じとゆーか。何せHPSC-35HD500/1.3はシースにシルク巻いてるくらいだからな…

 件のオヤイデ製ケーブルHPSC-35HD500/1.3について言及しておくと、シルク製布巻きシースに金属製プラグを使用した、如何にもアップグレード用って見た目のシロモノ。取り回し易さはT60RPやTH610に付属する布巻きケーブルと同様。つまり固くてガッチリしてる分、正直に言って扱い易くは無い。その分頑丈そうなので自分はこういうタイプの方が好きだが。

 パッケージはシンプル。白黒のモノトーンに統一されており無駄が無い。モニタースピーカーメーカー監修のモニターヘッドフォンらしいっちゃらしい風情。演出過多よりは格段に好みなんで無問題。


 んー、まー取り敢えずファーストインプレとしてはこんなもんかなー。
 本格的?なモニターヘッドフォンってコトでつまらん音かと思えば全然そんなことはなく、前評判で察していた「ゾネホンはドンシャリ」という特徴をリケでフォローしたもんだからか、ボーカルの引っ込みを感じさせないバランスの良い音を十二分に楽しめた。尚且、卓越したステレオ感や優秀な分離・解像感といったモニター機らしさ?を節々に感じられ、「音楽制作の現場でマジに使われてるヘッドフォン持ってんだぜ!」という安っぽい所有欲を満たしてくれる辺りが満足度高め。
 見た目がイマイチな点と、元々の価格の高さ、リケによるある程度の追加出費を許容出来るなら、中々のダークホース的面白さを秘めた機種ではなかろうか。知名度こそ低そうだが、少なくとも自分は気に入った。間違い無くSRH440よりイイ音だし。

 因みに。今回の買い物で結構ポイントを稼げたので、イヤーパッドを二つ程購入しておこうかと。
 一つはTH610の純正パッド、もう一つはSP-5用にYAXIのfix90を仕入れてみるつもり。後者は使用したら感想等書こうかなー。



※追記[211103]:YAXI fix90とSP-5の相性について

 SP-5の純正イヤーパッド温存用としてYAXI fix90を購入、使ってみた。

 サクッと結論から。
 合わん。

 SP-5のパッドはどうやらベースとなっている本家UltrasoneのSignatureシリーズのソレとは少しモノが異なる?らしく、例えばSP-5と同じく合皮製のパッドを使っているSignature Studioが「パッド硬ぇ!」と言われている一方で、SP-5のパッドにそこまで硬い感じは無い。適度にしっかりしており、適度に柔軟。
 しかしYAXI fix90は非常に柔らかく、そのせいでドライバ(を覆っている金属板)が耳介に触れるようになってしまう。純正パッドはそこそこ反発力あるのでそんな事は起きない。つまりドライバから耳介までの距離が純正パッドよりも近くなっている。
 その結果だろう、fix90使用時のSP-5はかなり低音が盛られた音に変貌。更に純正パッドで感じられた「カラッとした音」が失われてしまう。元々のスペックが優秀だからか、音に深刻な籠もり曇りが発生することこそ無いものの、帯域バランスがかなり変化する為、正直言って相性は良くない気がする。

 この分だと、恐らくSP-5にはfix90よりもstPad系みたくカッチリした感触のイヤーパッドの方が合ってそう。WP900で使っているstPad2とか良いかもしれない。アレはちょいと硬めに出来てるし。
 というか実際問題SP-5のイヤーパッドって本家のSignatureシリーズの合皮系パッドと同じものなのか違うものなのかどっちなんだろう…? 一度メーカーに問い合わせてみようかしらん…

(※補足追記[211105]:
 ADAM AUDIOの日本代理店にSP-5のパッドについて問い合わせた所、本家UltrasoneのSignatureシリーズ用合皮パッドと同一ではないか、という回答があった。

 …………が、ADAM AUDIO本国のサイトへアクセスしてみると、公式通販でSP-5の交換用イヤーパッドやケーブルが販売されているのだが、値段が明らかにおかしい。特に合皮パッド。安過ぎる。
 UltrasoneのSignatureシリーズ用合皮パッドは日本公式代理店であるアユートの通販で4kくらいなのに対し、ADAM AUDIOのドイツ本国公式通販でのSP-5用合皮パッドはたった$16.99、つまり2000円弱なのだ! …………ええぇぇ…………
 しかもADAM本国公式通販は合皮パッド以外にベロアパッドも販売しており、こっちも安い。$24.99≒3000円弱。…………おぉぅ…………orz

 ……コレ、代理店に言えば取り寄せて貰えるんかねえ……(遠目
 つーかこの価格差、明らかにSignatureシリーズ用パッドと同一ではないよなあ……(乾笑)


※追記[211106]:

 SP-5で試したfix90と、WP900に装着していたYAXI stPad2を入れ替えてみた。
 案の定予感的中。fix90ではSP-5のドライバと耳介との距離が近過ぎて接触してしまっていたが、stPad2に替えるとそういう事は無くなった。音の感触もやや純正っぽい感じに戻った。それでも低音の聞こえ方を中心に未だ何となく相違を覚えなくもないが、ドライバと耳介の距離が空く事でfix90よりも随分聞きやすくなったので、まあ当分コレで通してみようかと。
 逆にfix90を宛行う事になったWP900だが、試しに聞いてみると此方も恐らく純正パッド使用時の風情に戻ったっぽい。つーかWP900の純正パッドとfix90がかなり似てるし。stPad2使ってた時に比べて低音の量感がドッと増えており、ただその一方で意外にも中高音がstPad2使用時よりも鮮やかかつ芯が通っているように聞こえたので、中々悪くない。恐らく、fix90に替えて密着性が向上した効果によるものと思われる。
 装着感だけで考えてみると、モニター用故に側圧の強いSP-5とややしっかりした感触のstPad2、ポータブル用の割に側圧が弱いWP900と柔軟故にしっかり密着するfix90という組み合わせは、その実互いにバランスが良いのかもしれんねー。


 
 

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