2021/04/03

イヤフォン雑感:DUNU-TOPSOUND Studio SA6 ファーストインプレッション

 目星付けてるDAPについて調べていたハズが、気が付けば凡そ60kする高級イヤフォンをIYHしていた。
 な、何を言っt(以下略



 ……取り敢えず、毎度の如く弁解から。

 元々は海外の有名な某音響系フォーラムにShanling M3Xのレビューが上がっていたのを見付けて、ソレをざっくり読んでいたのだが、レビュアーがM3Xに繋いだイヤフォンとして本機が記述されていたのである。
 イヤフォンメーカーとしてのDUNUを一応知ってはいたのもあり、偶々、そうホントにマジで何の気無しに、本機がどういう機種かググって調べてみて、…………正にそのフォーラム内で、かなりの高評価を食らっているのを目撃してしまったのが運の尽き。

 一頻りレビューを翻訳機能を駆使しまくって読み込んでみると、
「ダイナミック型に定評のあるDUNUがリリースした、流行りのハイブリッドではなく純粋なマルチBA機で、ダイナミックドライバは含まれていないが低音は十分出ており、上から下までしっかりバランス良く鳴らしてくれる」
 ――概ねこんな雰囲気で、何れのレビューもかなりの好感触。しかも一部では「レファレンスモニターとして使える程バランス良好」とまで書かれていて非常に驚いた。
 ……つーか此処のフォーラムのレビューで、酷評らしい酷評が見当たらないって一体どういうことなの……?(驚愕

 値段を調べてみると、代理店を通した国内正規流通価格で60k弱。海外通販で直輸入すると$550くらいなので日本円換算で60k強――って海外価格よりも国内価格の方が安いんかい!? しかも直輸入は関税乗っかかる懸念を踏まえれば更に値打ち度が上がるワケで…………幾ら何でも代理店頑張り過ぎちゃう????(困惑
 それに60k弱で済むなら約65kで買ったATH-WP900よりも値打ちじゃん? もうこれは買いじゃね??(感覚麻痺

 樹脂化した木材をフェイスプレートに使用した小洒落たデザイン、カスタムIEMライクなシェル形状、モジュラープラグにより2.5/4.4mmバランスと3.5mmシングルエンドを自在に切り替えられるケーブル、音質の切り替えギミック、兎に角バランスに優れた鳴り方――――と、個人的にストライクを多数食らいまくってしまい、…………気が付けば、衝動的に某店で注文してしまった次第である。
 ……………………何と言うか、我ながら毎度毎度懲りねえなぁ??(諦観


 そんなワケで、遂に手を出してしまった高級イヤフォン。やっちまったなぁ!
 いやしかしまあ冗談抜きに青天井の世界なので、コレでもかなり安いっつーか最早エントリークラスみたいなもんかもしれんが…

 箱出し後、先ずは装着感をチェック。デフォのイヤピは付属品の白のMサイズが嵌っていたが、…………なーんかイマイチ密閉性が悪い。つーかあんま耳の奥まで突っ込めてない気がする。コレは宜しくない。
 そこで手持ちのサード品から、深々突っ込めそうなイヤピとしてSpinFit通常径のMサイズをチョイス。……お、良い感じに密閉成功。んじゃ一先ずコレで。

 ケーブルのモジュラープラグは3.5mmが装着済みだったので、そのまま我がレファレンス環境であるADI-2 DAC FSのIEM出力にジャックイン。
 適当なロスレス音源(FLAC44.1kHz/16bit~192kHz/24bit)を再生してみた。


 個人的にイヤフォンはヘッドフォンと違って、耳に嵌めてすぐに音出しした直後と、一曲程聞き流して耳が慣れた辺りとで、音の感触がかなり変わってくる。
 実際、本機も聞き始めは「……んん?こんなもんか??」と思ったが、それでも取り敢えず一曲を最後まで再生して、それからもう一度最初から、今度は気持ちを入れ替えて真剣に慎重に聴き直してみた。
 すると、

「――――!?」
 その音の感触の良さにびっくり。つーか何じゃこの明瞭感と分解能の良さは……?!

 レビューで予めイメージしていた通り、帯域バランスは頗る良好。確かに上から下までまんべんなく鳴っている。低音の量感も十分。外耳道が音で震える感触が確り得られる程。
 だがソレより何より、全体的な鳴りのクリアさと、個々の音に意識を向けた際の分離感の良さに只管感心させられた。所謂「音像」が明確で、「解像度」が相当に高い感じ。

 ……そして、不思議な事にそれでいて「全く刺さらない」。裏を返せば多少「刺激に乏しい」と言えるが、明瞭感と分解能が良過ぎる為か欠点が霞んでしまっている。国内のレビューで本機の音が「シルキー」と評されていたが、成程的を射た表現だろう。余りにも「聞き心地が良過ぎる」。
 音像は明確明瞭、表現は微細繊細ながら、耳を突き刺すような刺激は一切皆無で、長時間でも苦も無く聞き流せてしまう。正に絹の如く大変滑らかな鳴りっぷりだが、明瞭感と分解能が優秀なのに加えて、思った以上に響く低音のおかげか、楽曲の「迫力」がちゃんと表現されている。それ故この聞き易さに反して中々「聴き飽き難い」のは、特筆に値するのではなかろうか。

(※補足:
 「SpinFitの開口部がSA6のステム径より細く、ノズルが少し隠れてしまっている」点が何となーく気に掛かり、後日「SednaEarfit LightのMSサイズ」を御馴染の密林で購入しイヤピを変えてみたところ、高域が若干刺さるくらいエッジが立つようになった。どうやらSpinFitはSA6の高域をマスクしていた模様。おいおい…
 SednaEarfit Lightでは開口部がステム径とほぼ釣り合っており、高域の変化はソレが理由と思われる。ぶっちゃけとても好みの塩梅に変化してくれたので完全に大当たり。装着感も言う事無し。SpinFitの刺さりゼロなシルキーサウンドも悪くないが、やはり高域は多少エッジ立ってる方が好物なので…
 以下、御手数ですがあくまでも「SpinFit通常径(CP100相当)のMサイズ」を使用時の感想として御読み下さい。(平謝))

 散々SA6の音にびっくりした後、「コレは是非とも手持ちの他のイヤフォンと聴き比べなければなるまい」と思って、以下の機種を引っ張り出した。
・Westone4R
・TripleFi 10
・Klipsch X10
・CL750
・AZLA MK2
 そんで此等とSA6を、ADI-2 DAC FSのIEM出力相手に取っ替え引っ替え適宜挿し替えてみた。
 …………端的に言って、聴き比べてみた事を後悔する羽目になった。
 
 理由は単純明快。「SA6の音が良過ぎて話にならなかった」。
 ぶっちゃけレベルが違い過ぎて勝負にすらならん有様。いやマジで。SA6クオリティ高過ぎ。クリアさ、滑らかさ、分離感、帯域バランス、何れも断トツだった。やべぇ。
 ……確かに値段はSA6がぶっちぎりで高価いが、真逆此程差があるとは思いもしなんだ……

 一応、匹敵とまでは言えずともそれなりに健闘していたのはTripleFi 10とCL750、AZLA MK2の三つ。どの機種も鳴りに明瞭感があり、またSA6には少ない高域由来の刺激が結構含まれていて良い感じ。
 中でもAZLA MK2はSA6に次いで新しいだけあって、流石に悪くなかった。低域にダイナミックドライバを使っているおかげで迫力バッチリ。……むしろ三つの中だと、最も古いモデルの10proが未だに通用しそうな塩梅なのがおかしいっつーか。

 逆に参ったのはWestone4RとKlipsch X10。特にW4Rは一聴して帯域バランスの違和感がとんでもなく、大いに混乱させられた。X10は帯域バランスはさておきクリアさが今一つなのが悩み所。
(※暫く後XD-05 Plusで、少し大音量気味に改めてW4Rを鳴らしてみた所「聞くに堪えん程では無いか…?」と思えたので、聴き比べでの違和感は音量によるものかも?)


 今まで自分は、基本的に音質だけを求めるなら、
「ヘッドフォン>>(越えられない壁)>>イヤフォン」
 ――である、という認識を持っていたのだが、SA6の音はちょっとソレを改めさせるだけの破壊力を持っていた。「音の質感、感触」がヘッドフォン(特に最近レファレンスとしているT60RP、DT1990PRO、ATH-WP900辺り)に極めて近く、一聴して違和感を殆ど感じられないのだから魂消る。此程の音像と表現をイヤフォンで得たことが無いので、ぶっちゃけカルチャーショックレベル。
 高級イヤフォン、侮り難し。

 不満があるとすれば、「高域に刺激が無い」こと。所謂歯擦音やシンバル等の辺りがマジで全く刺さらないため、もうちょっとエッジ立ってても面白いのになー、と思ってしまう。
 ……いやはや全く以て贅沢な話だが。

 SA6の音を手持ちのオーバーヘッドで例えるなら、T60RPとATH-WP900(with stPad2)の中間だろうか? 全体的なバランスの良さや鳴りの滑らかさにT60RP、クリアさと低音の量感の両立にATH-WP900っぽいエッセンスを感じなくもない、という印象。
 尤もその二機種はSA6よりもうちょっとダイナミズムがあったと思うが、……幾ら何でも、設計にかなり余裕持てるオーバーヘッドとインイヤーモニターをその点で較べるのは酷ってもんだろうよ。


 音のことを散々書き連ねたところで、音以外のこともちょっと書いておこうかと。

 デザイン、もといフェイスプレートだが、自分のはかなり赤々した色合いだった。代理店のページに掲載されている写真を真に受けるなら、相当に青っぽいプレートがありそうなものだが、…………冒頭で述べた海外の某有名音響系フォーラムのレビューに貼られていた写真を見る感じ、どうやら基本的にそこまで青々しいプレートは無さそうである。
 なので、「プレートは概ね赤っぽいかも?」という点は注意した方が良さ気。因みに質感自体は至って良好で文句無し。

 ケーブル。単結晶銅の銀メッキ?で8芯らしい。結構太く、とても確りした作りで此方も質感良好。固すぎず軟すぎずで程々の取り回し加減。何よりモジュラープラグを採用しているおかげで、3.5mmシングルエンドや2.5/4.4mmバランスといった現在の主要な接続方式を、ケーブル一本で全て賄えるのが有難過ぎ。
 確か、超高級DDイヤフォンで有名なDITAもプラグ部分が交換可能なケーブルを使っていたはず。だがあっちは価格がヤバいことになってる(※最上位機は300k近い)ので、100k未満の機種にもちゃんとした?品質のモジュラープラグ式ケーブルを同梱してくれるDUNUは良心的だなあ、と。

 付属品は充実の一言。ケースやイヤピ、クリーニングツール、交換用プラグ(2.2/4.4mm)、3.5mm→6.3mm変換アダプターなど、一通り揃っている。イヤピが三種類も付いてたのにはちと面食らった。でも結局使わなかったのが何ともアレだが。
 箱出しの際感心したのだが、左右のイヤフォン本体にはそれぞれ別個に袋を被せてあって、シェルに傷が付かないよう丁寧に配慮されていたのが地味に嬉しい。なお袋は捨てずにそのままケースへしまう時使っていたり。

 装着感はイヤピにもよるだろうが、少なくとも自分は先述の通りSpinFit通常径(CP100)のMサイズで十分密閉出来た。その上でシェル全体がカスタムIEMライクな形状故に、耳の窪みへすぽっと収まるため、自分に合ったイヤピを適切に選択出来れば凄まじい遮音性を得られること請け合い。
 ……正直、こんなにも遮音性高いイヤフォンは初めて経験したのでちとビビった。間違っても自動車・バイク・自転車等の運転中に使用しないように!(真顔

 音質の切り替えギミックは公式の表現が何ともあやふやでイマイチどう変わるのか掴みづらかったが、有難い事に海外レビュアーが何とわざわざf特を計測してグラフを掲載してくれていた。感謝。
 ソレによると、低域が少々持ち上がる、所謂バスブースト的な効果がある模様。実際、そうと分かった上で聴き比べてみると、確かにスイッチがONの位置にある際は低音の量が増えている気がしないでもない。
 ただ個人的にデフォルト状態(スイッチ位置が「1」の時)でも低音量は十分だと思うので……勿体無い話だが、当分この機能を使うことは無いかもしれない……(遠目

 此処でまっこと今更ながらSA6のスペックを見てみると、
――――――――――――――――――――
(※以下公式代理店製品ページより引用)
重量:11g
周波数帯域:5Hz-40kHz
インピーダンス:60Ω at 1kHz
感度:113+-1dB at 1kHz
THD:<0.5% at 1kHz
――――――――――――――――――――
 ……と、イヤフォンにしては結構インピーダンス高めなものの、能率が113dBある為か特別鳴らし難いとは思わなかった。ADI-2 DAC FSのIEM出力の-20.0dB辺りで既に結構な大音量で、鳴りの滑らかさ故更に音量を上げても全然問題無く聞けてしまったり。ダイナミックレンジ広い大編成のオーケストラなんかはついつい音量を上げがちだが、その場合難聴には要注意!
 詳しい人に曰く「イヤフォンのインピーダンスが高いということは、アンプ側の出力インピーダンスによる影響が少なくなる」らしいので、SA6は上流を選り好みしないタイプと言えるのではなかろーか。代わりに出力はそこそこ要るかもしれんが、まあ最近の4.4mmバランス出力積んでるようなDAPなら先ず大丈夫だろう。
 また、2010年代前半のBA型イヤフォンは再生可能周波数帯域の上限が凡そ20kHz前後であることが殆どだったが、SA6は何と倍の40kHzまで出るように。流石はハイレゾ世代の最新型と言うか…



 …………昨年だけでXD-05 Plus、T60RP、ADI-2 DAC FS、ATH-WP900、DT1990PROと相当額(※諸々のオプション等も含みでざっくり計算して320k。……320k!?)を散財しておいて、更に言えばそこそこ前から購入を検討し続けているDAPの新調をすっ飛ばして、新年度早々いきなり高級イヤフォンをIYHしてるんだから、…………我乍らホント馬鹿と言うか阿呆と言うか愚か者と言うか…………(自己嫌悪

 しかし実際にその音を聞いてしまうと、……そりゃあ皆沼に嵌るよね、と言わざるを得ないのが何ともはや……60k弱のSA6ですらこのクオリティなら、もっと高価い、それこそ100kや200k、300kするようなイヤフォンはどんな音なのやら。とは言えヘッドフォンやイヤフォンそのものに100k以上出すなら、先ずはオーバーヘッドからにしておきたい所ではあるけど。HPA/DACはADI-2 DAC FSで100k超え経験しちゃったしねー。
 大体、イヤフォンはヘッドフォンよりも格段に新商品のリリース速度が早いカテゴリなので、沼がヘッドフォン以上にタチ悪いことこの上無いのよなあ。気になるからって矢継ぎ早に買いまくってたら札束が幾つ有っても足らんぞコレ。いや冗談抜きで…


 ……値段を一切気にしなくていいなら、気になる機種は既に幾つかあったりする。

 中国のカスタムIEMメーカー、Unique Melodyの「MEST」。BAドライバだけでなく静電型や、何と骨伝導ドライバまで積んだという正しく「ユニーク」極まる機種。お値段170k程。グローバル市場では最近MKIIが出たそうな。
 米国のイヤフォンメーカー、Campfire Audioの「ANDROMEDA(2020版)」と「SOLARIS(2020版)」。それぞれ150kと190kくらい。特にANDROMEDAは高音のキラキラ感と超高感度で接続先を選ぶことで有名。

 何れも今回衝撃を受けたSA6の2~3倍以上する超高級機なので、まあ間違い無く自分が近い内に手にすることは無いだろうが、それでも音を確かめる機会があれば、一度どれ程のシロモノか体験してみたくはありますなー。

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