2021/10/07

音響機器色々雑感

 突然ですが。
 FiiO FD5とThieaudio Oracle、更にFostex TH610を買いました。


 「……もう何度目だよこの流れ……」と自分でも思わなくもないが、取り敢えず毎度の如く釈明から。


 海外レビューの高評価を頼りに購入して、実際そのクオリティに感激したDUNU Studio SA6。そしてSA6購入後に、内部構成の対称性から興味を持ってしまったUnique Melody 3D Terminator。
 何方も気に入って適宜もとい気分で使い分けていたが、……その最中にふと思ってしまったことがある。

「……BAのクリアさとDDのインパクトを両方兼ね備えた音が欲しい……」

 明瞭感と鳴り方のバランスに優れるSA6だが、3DTと使い比べていて気付いてしまったことがある。「低音(特に打楽器)のアタック感に乏しい」のだ。
 恐らく、SA6の海外レビューで度々触れられていた「欠点:BAの低音」とは正にこの事だろう。3DD機である3DTはドラム等打楽器が鳴った際の瞬間的な衝撃がしっかり伝わってくるのだが、SA6はその感覚がかなり薄い。例えばドラムが高速で打ち鳴らされるハイスピードなロックだとコレは致命的で、何とも刺激に乏しくなってしまう。
 一方で3DTは低音のアタック感こそSA6に勝るが、明瞭感や解像感といった部分でSA6に劣る。特にボーカルが顕著で、3DTからSA6へスイッチすると声の聞きやすさ、クリアさに驚かされる。

 ……とまあ、SA6にも3DTにも強みと弱みがあり、鑑賞する曲に応じて使い分けるのが実際面白いのだが、…………うっかり、魔が差してしまったのが運の尽き。

「…………そう言えば。
 ハイブリッド構成のIEM、未だ持ってなかったな――――(遠目」

 ……我乍ら、最早完全に病気と言う他無い。(乾笑


 そんな訳で始まったハイブリッド機探索だが、ちょっと前から気になっていたメーカーがあった。
 オーディオ系中華セラーでも比較的有名?な「Linsoul」のオリジナルブランド、「Thieaudio」である。

 実を言うとLinsoulは以前日尼経由で利用したことがある。オペアンプ交換まで実施して絶賛愛用中の高出力PHPA「xDuoo XD-05 Plus」を購入したショップが、何を隠そうLinsoul(日尼での名義は「L.Sオーディオ」)だったり。

 驚いたことに、Linsoulは何とThieaudio以外にも複数のオリジナルブランドを構えており、何気に何れのブランドも中々評価高め。
 とは言え、その中でも特に有名なモノはThieaudioの「Monarch/Clairvoyance」だろう。「2EST/[6 or 5]BA/1DD」というハイブリッドどころか「トライブリッド」とでも言うべきド級構成を誇るIEMで、しかも構成の割に安い?(Monarch:$730、Clairvoyance:$700)為か、オーオタ達の間で話題になっていた御様子。音質も上々だそうな。
 そのThieaudioが最近になって、「2EST/2BA/1DD」という構成のIEM「Oracle/Excalibur」を発売し始めた。Monarch/Clairvoyanceで指摘されていた「シェルがデカ過ぎる」という欠点を、BAドライバ数を一気に引き下げて筐体をスリム化することで解消した――のかどうかは果たして定かでないが、少なくともOracle/Excaliburにそういう期待が寄せられていたのは確か。

 「ふーむ、面白そうだなOracle…」と興味を惹かれていたのだが、……此処でまさかの事態が起こる。
 二次元美少女パッケージで御馴染?のMoondrop(水月雨)から、Oracleと同構成のトライブリッドIEM「Variations」が発表されてしまったのだ。

 Linsoul製品最大の懸念は「国内での正規流通が為されていない」ことに尽きる。日尼を介せば多少のリスク低減は可能だが、それでも個人輸入と大差無いので、万が一の事態が起きた際が怖い。
 対して水月雨は日本国内に代理店(「地球世界」と言うらしい)があり、Linsoulよりも購入後のアフターケアを受ける上でのハードルが圧倒的に下がる。やはりこの安心感は捨て難い。

 さて何方にしたもんか……と連日悩んでいた折、ある海外の有名なレビューサイトでOracleとVariationsの周波数特性(以下「f特」)が公開されたので、早速比較してみた。
 すると、Variationsは意外にもかなり低域が強いらしい。水月雨は何方かと言えば中域〜高域の鳴りに定評があるメーカーだと思っていたので、この測定結果には正直面食らってしまった。
 幸運な事に件のサイトにはSA6の測定結果もあったので、OracleとVariationsのf特をSA6とも比べてみたが、SA6のバランスに近いのはVariationsよりもOracleだった。

 ……この時点で腹が決まり、Variationsを却下してOracleを注文することに決めた。
 ATH-WP900にstPad2を使用した際の感覚を思い返しても、自分は低域強めの鳴り方よりニュートラルで中庸気味なバランスの方が好ましく感じるタチっぽいので、Oracleの方がより好みに合うハズだ、と考えた次第。


 そんなこんなで日尼からOracle(4.4mmプラグ仕様)を注文したのだが、…………注文する前から分かっていたものの、「到着まで一ヶ月以上待たされる」のは結構しんどい。手持ち無沙汰感マジで半端無かった。
 ……気が付けば「イマドキのシングルダイナミック型IEM」を物色し始めており、引っ掛かってしまったのがFiiOのFD5である。

 いやDD機ならUM 3DT持っとるやんけ、と自分でも散々ツッコんでいたのだが、いやいやアレ3DDなんて変態構成だからシングルダイナミックとは全然違うじゃん?、と悪魔が囁いてきたと言うか……(遠目

 余りにもしょーも無さ過ぎる理由でIYHしてしまったFD5だが、実はFiiOのシングルダイナミック型IEMのフラグシップモデル。……少なくとも、自分が購入した時点ではそう「だった」。
 現在は既にFD7という新型が発表されており、FD5のドライバーが「ベリリウムコーティングしたダイヤモンドライクカーボン(DLC)振動板」を使用しているのに対し、FD7はよりハイクラスな「ピュアベリリウム振動板」を採用している。

 個人的にベリリウムと聞くと「元素周期表でリチウムの隣りにあるアルカリ土類金属?元素」なんて高校化学的イメージが先行してしまうが、音響機器の振動板の材料として非常に優秀な特性を持っているのだそうな。但し加工難度が高く、基本的には高級機にしか用いられないらしい。
 実際、ピュアベリリウム振動板を採用したIEMやヘッドフォンはかなりの高額機ばかり。Focal Utopiaやfinal A8000辺りでググれば分かるが、恐ろしい価格が付いている。

 じゃあFD7もお高いんでしょう?と普通思うだろうが、……FD7の価格は60~70kくらいで、final A8000の凡そ1/3くらいしかない。
 ……中国製機器の価格設定は摩訶不思議としか言い様が無い……

 敢え無くフラグシップモデルの座を追われてしまったFD5だが、決して安物ではない。33kもするのだから、一般人目線で言えば十分過ぎる程の高級イヤフォンだろう。地味に海外を中心として評価が高く、低域を強調した鳴り方が好評な模様。
 先述したように、本来自分はニュートラルでいっそモニター的なバランスが好きなのだが、にも関わらず怖いもの見たさで敢えてFD5をポチってしまった。まー海外であんだけウケ良けりゃ地雷ってワケじゃなかろうて、なんて楽観視の賜物というか。


 そして最後にFostex TH610だが、…………最早、Oracle、FD5と立て続けの散財で金銭感覚のタガが外れてしまった果ての所業としか表現出来ない…………(死魚目
 密閉型はATH-WP900持ってて気に入ってるけど、手持ちのオーバーヘッド振り返ったらソレだけじゃ密閉型少な過ぎるよなあ?、なんて一瞬でも思ってしまったのがアホだった……

 それでも、当初物色していたのはあくまでも密閉型モニターのハズだった。HPH-MT8とか、MDR-M1STとか、Hi-X55とか、ADAM AUDIOのSP-5とか。
 にも関わらず、途中で「モニター、ってんならDT1990PROはガチだし、T60RPも素性的には近いし、K701だってモニター扱いされたりするし、HD25は言わずと知れた定番だろ? ……あんまモニターに拘らなくても良くない??」と要らん事考えてしまい路線変更。最終的に、リスニング機とモニター機の中間的な質が期待出来そうなTH610へ行き当たってしまった。……我乍らバカの極みも甚だしくて涙がちょちょ切れそうだ……

 ただ、コレでいい加減音響機器への散財に終止符を打てるのでは、という思いが無きにしもあらず。
 リスニング用としても申し分無い開放型本格モニターのDT1990PRO。名目上はリスニング機だが素性故にモニター的側面もあるT60RP。パッドの交換によりバランスが好ましくなったATH-WP900。そして今回のTH610が加われば、もうこれ以上の投資は当分必要無くなるだろう、と。
 ……ぶっちゃけ「マトモな密閉型モニターヘッドフォン」の席が未だ空白のままだが、余り気にしてはいけない。気にしたら負けよ……(目逸


 毎度御馴染衝動買い、それも今回は立て続けに三機種も纏め買って、御値段何と――――まさかまさかの170kオーバー
 ……幾ら臨時収入のおかげで財布の紐がゆるゆるのガバガバになったとしても、流石にそろそろ紐をキツく縛っておきたいと思う今日此頃である……(遠目


 経緯の説明はgdる一方なのでもう打ち止めにして、そろそろ個別に音やら作りやらの感想をば。
 以下、断りが無ければソースはShanling M3X(4.4mm) or ADI-2 DAC FSを、音源はFLAC(44.1kHz/16bit~192kHz/24bit)・DSD(2.8~5.6MHz)を使用。


<Thieaudio Oracle>
 SA6のバランスと3DTのインパクトを両立出来そうな機種として、水月雨のVariationsと迷った末に選び抜いたOracleだが。
 結論から言えば――――正に、ドンピシャだった。

 SA6と同様に上から下まで万遍無く鳴らしつつも、SA6では少々物足りなかった低音のインパクトがダイナミックドライバによって確り補完されている。加えてESTドライバの効果だろうか、歯擦音やシンバルといった高域の音がSA6よりもハッキリ鳴るため、SA6よりも全体的に刺激的でノリが良い。
 ではOracleは3DTに近いかと言えばそうではなく、やはり音楽の主となる中域をBAドライバが担っているだけあって、中域の繊細さや鮮明さが間違い無くSA6に似ている。3DTは音の質感が根本的に異なる印象。
 中域の明瞭感、高域の透明感、低域の衝撃感をバランス良く揃えており、それぞれが担当しているドライバを踏まえて考えると、成程コレがハイブリッド(正確にはトライブリッド、だが)構成の強みか…!、と感心させられてしまった。ESTは例外として、正しくBAとDDの「良いトコ取り」を体現した音だと感じた。

 イヤーピースだが、恐らくはSpinFit CP100(Mサイズ)が付属しているのを即座にAET07(Mサイズ)に変えて聞き始めた。
 が、どうにも高域と低域の主張が激し過ぎて聞き疲れ易い傾向があったので、試しに3DTで使っていたSpinFit CP145(Mサイズ)と交換してみた所、コレがバッチリ。高域と低域が落ち着いて程良い塩梅に収まってくれた。

 因みに、SA6とOracleの最大の違いがズバリこの「高域と低域の主張による聞き疲れ」。更に言えば、「ボーカル等の中域」に焦点を当てるならSA6の方がOracleよりも鮮明。
 まあ、この辺は高域と低域にそれぞれ静電ドライバとダイナミックドライバを充てがってきちんと鳴らせるようにした代償だろう。欠点というより個性の類と言うべきではなかろーか?
 なのでSA6との使い分けは多分可能。声をメインで聞く時や、聞き疲れを回避したい時はSA6、様々な曲をノリ良く楽しみたいならOracle、ってトコ。3DTも使い分けに加えるとすれば、打楽器の存在感と軽快な聞き心地を両立したい時に3DTはベストかな?


 こんな感じで、Oracleの音には大変満足。SA6はSA6でやっぱ良いなーとても手放せんわー、と改めて思えたりしたので、そういう意味でも満足出来ている。

 …………が。
 そんなOracleだが、音以外の点でやや難あり。

 尤も、音質に直接影響するような深刻な「難」ではない。単純に、クオリティチェック(QC)がやや甘いなー、と思っただけのことである。
 具体的に言うと、

・プラグの銀カバー部にやたら小キズが多い
・イヤフォン本体のフェイスプレート表面に少し不自然に凸凹している部分がある

 この二つ。
 正直、遠間から見る分には全く分からないレベル。

 だが曲がりなりにも60k近い商品なので、こういった仕上げはしっかりしていて欲しいところ。現に、若干価格が上回るSA6や、国内で買うと価格が近い3DTなどはこういった「難」が皆無なので、流石にメーカーとしての年季が違うなあ、と。
 パッケージデザインもパッと見では高級感漂うものの、細かい所で「雑……(苦笑」と思ってしまうのが如何にもガレージメーカーと言うか大手っぽくないと言うか。


 ケチを付けてしまったが、音そのものは本当に気に入っているし、その「ケチ」も音とは関係無い部分の話、しかも目立たない程度でしか無い。ので、気にし過ぎて買い渋る程のモノじゃないかと。
 逆に言えば、その辺をどーしても気にしてしまうならちょっとやめといた方が良いかも? 代理店噛まないから文句つけてもどーしよーもない可能性大だし。
 見た目の細かいアラを「……中華だから仕方無いネ!」とサッパリ割り切れるなら素直にオススメです。


<FiiO FD5>
 Oracle到着までの手持ち無沙汰解消として購入したので、実はOracleより早くその音を聞いているFD5。
 事前にレビュー漁った際見た「ズドンシャリ」という表現に思わず笑ってしまったものだが、…………確かに、噂に違わぬ「ズドンシャリ」だった。

 FD5を使用する前に、事前にSA6や3DTで耳を慣らしておいたのだが、一聴してすぐに分かるレベルで低域の主張が激しい。思わず「ぐお゛っ」なんて声が口から溢れた程。……未だ純正イヤーパッド付けてた頃のATH-WP900でも流石にこうはならなかったぞ。
 ただ同時に感心させられたのが「主張の激しい低域に、中域~高域が決して隠れきっていない」こと。中域~高域が低域にマスクされておらず、明確に聞こえてくるのには舌を巻いてしまった。流石はハイレゾ世代、とでも言うべきだろうか?
 後日、手持ちのシングルダイナミックから同じく低音強めであるIE8やSE215を引っ張り出してAP80で聞いてみたが、FD5の明瞭感が此等とは桁違いに優れていることを実感。改めて再度関心させられてしまった。

 しかしながらそうは言っても、当方、低音やや控えめでスッキリした鳴りが実に心地良いHeart Mirror [心鏡]を愛用しているような身。FD5の再生能力が過去の機種よりも格段に優れていることは十分理解出来たものの、このままでは常用が難しいのが本音。
 そこで、どうにかしてズドンシャリの「ズドン」を低減出来ないかと試行錯誤してみた。

 初め、「ズドンシャリ」であれば中域を補えばバランスが良くなるのでは?、と考えてイヤーピースに付属品の「ボーカル重視型」のMサイズを使っていた。ソレを御馴染AET07(Mサイズ)に変えてみる。
 すると、中域~高域に変化が見られた。引っ込み気味だったボーカル(中域)が多少前に出てくるようになり、高域も存在感を示すようになった。恐らくはAET07の開口部の広さによる影響と思われる。

 それでも、低域の主張がちと過剰に感じることに未だ変わりはないので、次の一手として「純銀線によるリケーブル」を実行してみることにした。値段が手頃で前々から興味があった純銀8芯線「KBEAR Limpid Pro KBX4913」のMMCX4.4mm仕様をAliexpressで購入、約二週間後に受領。
 到着後、いつものようにテスターでピンアサインを調べて異常の有無を確認。問題無かったので4.4mm端子を接点復活剤(大昔に音屋で買った「Cleansable」)でメンテ。FD5から付属ケーブルを引っこ抜いてKBX4913を充てがい、音を確かめてみた。
 一聴して驚愕。低域の主張が緩和され、代わりに中域〜高域がもっと前に出てきてより明瞭に聞こえるように。特にボーカルは引っ込み気味だったのが全く気にならなくなり、随分聞き心地が良くなった。低域も元から相当強かった為か、緩和されて尚十分な量感を持っており、むしろ締まりが出てきて宜しい限り。
 今年入ってからちょいちょい試しているリケーブルだが、銀メッキ銅や銅銀合金ではなく純銀という極端な素材故か、恐らく今回が一番明確に音が変わっている。事前の下調べでは「KBX4913は音の重心が高くなり過ぎる」という声が散見されたので少々不安もあったものの、結果的に大成功で大満足。

 純銀線リケ後のFD5は高域から低域まで全域に渡ってシャキッとした音色で、低域偏重気味だったリケ前と比較してバランスが良く元気な鳴り方。低域が引き締まってタイトになり、主張が増した中域〜高域により輪郭が明確な、瞬発力を感じるエッジの立った鳴りっぷりが聞いていて楽しい。
 音の繊細さはSA6やOracleの方が優れているが、明瞭感では負けておらず、曇り籠もりの類とは無縁。BA機とはまた違った、若干粗くも力感有る質感が面白い。また同じDD機でも3DTはFD5より小型のドライバを複数積むユニークな構成(3DT:中高域10mm*1・低域7mm*2、FD5:12mm*1)で、質感こそダイナミックドライバという共通項を感じるが、音色はまるで異なる。明確で力強いFD5に対して、一歩か半歩下がったような落ち着き?余裕?を感じる3DT、みたいな。


 ……さて。
 イヤピとリケーブルのおかげでFD5を常用出来る見込が立ったのはまっこと喜ばしいのだが、…………コイツも、Oracle同様にQCの面でやや難有りだった。
 つーか問題の程度考えるとOracleよりも格段に酷かった。

・付属するケースの不具合*2回
(筐体保護の為に付いているベルクロ固定式仕切板の縫製ミス)
・音道管終端のメッシュフィルターの脱落

 ケースの方は未だマシとして、メッシュフィルターの脱落は正直マジで焦るからホント勘弁して欲しい……既にケースの件で販売店やら代理店やらに散々問い合わせた後だったんで、もう一度丁々発止やるのが面倒臭くなり自力で慎重にセッチャコして補修したが、本来なら製品丸ごと交換案件である。
 FiiOは音響系中国メーカーではかなりの古株だし、DAPなんかは六桁するような高額商品も扱っているので、流石にQCしっかりしてるだろうと思ったら……………………ごらんの有様だよ!(溜息


 既にFD7という上位機種が出ていてフラグシップモデルの肩書が形骸化していたり、デフォのままでは低域が強過ぎるので多少手入れを要したり、どうにもQC甘めだったりと些か手の掛かるイヤフォンだが、価格考えれば悪くはない、ハズ?


<Fostex TH610>
 自らの密閉型オーバーヘッド遍歴を辿ると、
SRH440(売却済)→HD25 Originals→ATH-ESW9(売却済)→Aurvana Live!ATH-WP900
 ……と、どっちかってーとフルサイズよりもポータブルサイズばかり。なので、今回購入したTH610が初めてのフルサイズな密閉型オーバーヘッドということになる。

 前述の通り、当初は密閉型オーバーヘッドといってもモニター機を仕入れる予定だったが、気が付けば随分とゴツいシロモノを選んだもんである。
 そして現物を手中に収めてその音を確かめてみると、……成程、コレは「良いモノ」だ、と最早気に入ってしまう辺り我乍らほんとチョロいというか……

 既に発売から五年程経っているTH610だが、国内外共にレビューが思った以上に少なく、果たして自分の耳に合うかどうか不安はあった。しかしその数少ない感想の声を読み込む限り、
「抜きん出た部分は無いが逆にどの要素にも穴が無い優等生、音楽制作にも活用出来る癖の無い音」
 ……こんな感じで、何とも自分好みな文言が書かれているもんだから思い切ってチョイスしてしまった。

 ブツを受領後、豪勢なパッケージを開封して、ゴッツくぶっとくホームユースらしく無駄にクソ長い3mケーブルを本体に繋ぎ、6.3mm標準プラグを接点復活剤でメンテしてから使用開始。

 聞き始めて直ぐに、上述したレビューの文言を実感した。
 兎に角「普通に」良い音。

 高域から低域まできちんと鳴り、解像感・分離感・明瞭感の何れも優秀。高域は良く伸び、中域は明確に聞き取れ、低域は確かな圧を伴って響く。当然ながら曇り籠もりやボヤけは皆無。
 驚いたのは空間表現?で、フルサイズ故か耳の傍らよりもう少し遠くから鳴っている感覚を得られる。これまで密閉型はポータブルサイズしか使ってこなかったが故だろうが、密閉型らしからぬ、宛ら開放型めいた広さを感じられてびっくりした。

 加えて装着感が優秀。重量はそこそこあり、側圧がソフトなので普通なら頭頂部の負荷が心配になるトコだが、意外な程快適。ヘッドバンドの曲線が絶妙なのだろう、長時間着用していても殆ど気にならなかった。流石は高級リスニング機である。
 中庸で聞き心地の良い音に加えて装着感が優れているもんだから、ぼーっとしているとその内ヘッドフォンの存在を忘れてしまう。肩の力を抜いてリラックスしながら音楽を楽しめる、という点では我が愛すべきファースト・ヘッドフォンのHD595と似ているかも知れない。

 一方で、音に確り意識を向けると「音楽制作にも活用出来る」というレビューは決して間違いではないな、とも。自分が保有しているオーバーヘッド機で高解像度と明言出来そうなのは、やはり世代が相応に新しいT60RP、DT1990PRO、ATH-WP900辺りだが、TH610はそれらと比べても全く遜色無いスペックを感じさせた。
 と言うか、一聴した際の「違和感の無さ」に関してはTH610がダントツと言って良い。個人的に、イヤフォンやヘッドフォンは聴き比べ等で様々な機種を適宜スイッチしていると、替えた直後は聞こえ方に少々違和感を覚えてしまって、一曲分位の時間が経たないと耳に馴染まないのだが、TH610はサッと被って音を出して直ぐに「良い音」を感じられる。コレ、先述の三機種ですら中々こうは行かないので、地味に魂消てしまった。音色や質感がナチュラル過ぎる。凄ぇ。

 元々オーバーヘッドからオーディオにのめり込み始めたのもあるが、何だかんだ言って音楽鑑賞の花形はオーバーヘッドのヘッドフォンだなあ、と。先に感想を述べたOracleやFD5、既に愛用中のSA6や3DTといったIEMも確かに良い音を聞かせてくれるが、TH610の良さを散々実感した後だと「そもそもまるで次元が違う…」と改めて思わされてしまったっつーか。カテゴリ違うんで単純な比較は用を為さんかもだけど、やっぱTH610のようなオーバーヘッド・ヘッドフォンの方が圧倒的に音の感触が自然なので。


 音や装着感以外の部分だが、流石の日本メーカー、例え中国製造であってもちゃんとQCが行き届いてる感じ。ヘッドフォン本体、ケーブル、付属品(と言ってもレザー調ポーチのみだが)、どれもケチを付ける所が無い。何ならパッケージングも言うこと無し。
 箱は二重構造になっていて、表面がツルテカの薄めな紙箱の中に、異様にシッカリした蓋付き箱が収まっていた。蓋を開けると箱の内側にスポンジが充填されていて、そのスポンジにビニール袋に入った本体がスポッと収まっており、また同じくビニール袋に入ったケーブルが同梱されている、という塩梅。

 自分は嵩が張る事を承知で、この箱一式を収納ケースとしてそのまま残すことにした。
 いやまあ正確に言えば保有中のオーバーヘッドは須らく箱を捨てずに取っといてあるのだが、ただでさえ最早TH610は手持ち最高額クラスの機種になってしまうんで半端な保管をするワケにゃ行かんし、フルサイズで折り畳み機構の類なんぞあるハズも無いTH610本体と、ホームユース向けリスニング機ならでの矢鱈長い3.0mごん太ケーブルを、一式纏めて傷付かないよう丁寧に保護出来るケースを買おうと思うと、結構な額になってしまう。ソレにケースの分だけますます嵩張って収納を圧迫するし…
 だったら、それならいっそ大本の箱を活かしてしまうのが手っ取り早かろう、と思った次第。


 IEMに始まりいつの間にか物欲が脱線してIYHしてしまったTH610だが、いざ使い始めると価格相応の良さを感じてすっかりお気に入りになってしまった。……ほんとチョロ過ぎるぞ自分……
 密閉型なのであんま音漏れ気にしなくて良い(※但し外使い出来るレベルで漏れが少ない訳じゃないので注意!)し、モノとしての質感も音の感触も上々で個人的に言うこと無し。……ぶっちゃけ、単純な満足感ではOracleやFD5以上かも。(ぇ
 癖の無さ、ニュートラルとかナチュラルとか、とかく只管「中庸さ」を好んで求めているならマジでオススメ出来る逸品。ホント良いオーバーヘッド・ヘッドフォン。



 何とも景気良く立て続けに衝動買いしてソレはもうド派手に出費したワケだが、買い物内容にそこそこ満足出来ているとフトコロの貧しさを忘れられる不思議。現実逃避じゃね、って? あ゛ーあ゛ー聞こえなーい(目線明後日
 強いて言うならば、後はまあ、前述したように未だ空席である「密閉型モニターヘッドフォン」の座を如何に埋めるか、だが…

・MDR-M1ST:個人的にソニーはあんま好きじゃない
・HPH-MT8:音は良さそうだが、重いという声が気になる
・Hi-X55:価格と期待される音質、デザインのトータルバランスでは最有力
・ADAM AUDIO SP-5:ずっと気になっていたゾネホンに初挑戦?出来て、しかも「本格志向なクリエイター御用達のモニタースピーカーメーカーがプロデュース」という謳い文句にめっちゃそそられるが、如何せん価格高過ぎ

 もし今後入手するなら、恐らくHi-X55かSP-5辺りだろうか。今は無きAKGウィーン本社のエンジニアたちが手掛けた前者、モニタースピーカーの有名メーカーとUltrasoneがコラボした後者、国内外のレビュー漁る限り何方を選んでも損はしなさそう。
 しかしオーディオ製品に対する個人的なスタンスとして、「出来るだけ色々なメーカーの製品を味わってみたい」という考えがあるのよなあ……そこを踏まえるなら保有中のK701とある意味被るHi-X55よりも、純粋なゾネホンではないとは言えS-Logicの効果を十分確かめられそうなSP-5の方が若干有力かねえ。

 ま、何れにしても暫くは自重せんとね、財布の中身がね…………(死魚目

0 件のコメント: