2022/04/01

開放型ヘッドフォン雑感:HiFiMAN Edition XS ファーストインプレッション

 当分何か音響機器を買うことは無い、的な言葉を以前述べたことがあるな?
 ――あれは嘘だ。

 ……まあ、なんだ。
 性懲りも無く毎度、毎度毎度いつもの衝動買いである。(諦観の境地に達して久しい瞳

 アホ臭い言い訳をするなら、「手持ちの高級機に占める開放型オーバーヘッドの割合が低過ぎる気がした」次第。
 此処最近購入した密閉型が尽く50k以上したのに対し、開放型(半開放型含)は50k未満(※DT1990PROは購入時約49k)ばかりで、「……50k前後の開放型をもう一台は持ってても良いかにゃー?」とか要らん事考えちゃったのが運の尽き。

 しかも何とも御誂え向きっつーか、以前から興味はあった平面駆動型の雄であるHiFiMANから丁度良い価格帯の機種がリリースされたばかり。レビュー調べてみたら「癖が薄目でモニターっぽい?」とか実に自分好みの文言があり、俄然興味が出てしまった。
 そして間の悪い?事に、密林でメーカー日本法人公式が「10%ポイント還元+15%値引クーポン(+ペイディ後払いで更に5%還元)」という大サービスを展開しているじゃありませんか! ほぼ60kの機種が実質40k台! えっマジで!? よっしゃ買うっきゃねえ!

 ……いやあ、我ながら物の見事にHiFiMAN日本法人の販売戦略に引っ掛かっててホント馬鹿だよなーというか。
 だが海外の有名レビューサイトでかなりのハイスコア食らってるだけあって、確かに良いヘッドフォンだったからもう何も言えねー。(乾笑

 そんなワケで、HiFiMAN Edition XSのファーストインプレッションをば。


<梱包>
 届いた密林箱を開けてびっくり。すぐに化粧箱が見えるかと思いきや、目に入ったのはビニテでぐるぐるガッチガチに厳封した段ボール箱だった。フリップの境界面にはHiFiMANのロゴが入った密封?シールが貼られており、えっこれホントに中華メーカーの梱包か??、と困惑してしまった程。
 ビニテをカッターで切っていって箱を開封すると、先ず箱の厚みに驚く。何じゃこの分厚いダンボールは……と思いながら中を覗けば、そこにはEdition XSの化粧箱。そして四方を囲む緩衝材――って緩衝材だと?? 梱包に力入り過ぎてへんか????
 そんで化粧箱をひょいと取り出して更にびっくり。底面にも緩衝材が敷かれており、衝撃対策が余りに抜かり無くて呆然。暫し遅れて感心しまくる。……HiFiMAN、やるじゃん!


<外観>
 化粧箱を開いてEdition XS本体を確認。ベルベット生地?を被ったスチロールフォーム?に埋まり込んでいるのをそっと取り出してみる。

 …………う~~~む、チープ。(苦笑

 ハウジングとヘッドバンドを繋ぐハンガー以外はほぼプラスチック。なので見た目の割に軽量。……だがとてもコレが通常60k近い製品とはやっぱ捉えにくいよなあ……
 一緒に収められていたケーブルも確認。ゴム?っぽい被膜に包まれたごくフツーっつーか、コレと言って特徴無さ気なケーブル。ぶっちゃけ安物に見えなくもない。……リケーブルしろってことかねえコレは……(遠目


<音質>
 一先ず初期不良を確認するくらいの気分で、初っ端はXD-05 Plus(with 05BL Pro)を準備し、AP80から飛ばしたLDACを受けてみた。

 一聴して驚いたのは低域の鳴り方。事前の予想以上に圧力があり、インパクトが確か。緩くブーミーではなく、むしろタイトで引き締まった、瞬発力に優れた響きに思わずニヤリ。
 正直、もっと繊細で柔らかく穏やかな鳴り方を想像していたので、かなり意外。個人的にはむしろ好印象で、嬉しい誤算だった。

 高域は歯擦音や破裂音と言った「刺さり」が、音としてはしっかり聞き取れる一方で「本当に刺さって痛く聞こえはしない」点に感心。おかげで高めのパーカッションなんかの存在を強く感じられ、低域のタイトさと相まってリズム感の演出に一役買っている気がする。
 中域は……なんつーか、癖無さそうとゆーか。高域や低域に掻き消されることなくハッキリと聞き取れる、のは価格帯考えたら最早当たり前か。高域や低域に比べてコレと言った特徴は無いかもしれないが、裏を返せばかなりニュートラルな鳴り方とも言えるので、それはそれでその実かなり優秀な気もする。

 取り敢えず初期不良は無さそうだったので、此処で上流をADI-2 DAC FS(AKM版)+M3Xにチェンジ。じっくり聴き込んでみた。
 すると解像感・情報量・分離感が格段に上昇。所謂音の粒立ち感がよりキメ細かくなって、ダイナミックレンジがもっと広がり、音楽中の「音」を容易く聴き分けられる、的な。完全に好みドンピシャでついつい口角が上がってしまった。
 こういう、XD-05 PlusからADI-2 DAC FSへのステップアップによる変化はお気に入りのT60RPでも感じた事だが、Edition XSはそれがもう少し分かりやすいかもしれない。つまり前評判通り、上流の質に敏感っぽい。限界性能が高い、とも言えるだろうか。

 そのままADI-2 DAC FSで色々な曲を聞いていて思ったが、Edition XSは兎に角「レスポンス」が優秀。メーカー曰く従来の物よりも薄い新型の振動板を使っているらしいが、描写が只管細かく緻密で、解像度的な意味で楽曲の表現性が滅茶苦茶高いのはそれ故だろうか。
 但しヘッドフォン独自の音色、という演出で以て「美しく綺麗に、艷やかに鳴らす」タイプでは無く、「入力情報を極めて正確に、とことん真面目に鳴らす」タイプな印象。美音系ではなくモニター系、という評価は正にその通りだろう。上流のスペックを素直に表し、その変化、「差」という情報を叩き付けてくる辺りなんか特に。

 難点があるとすれば、…………上述した「入力情報を極めて正確に、とことん真面目に鳴らす」ことそのもの、だろうか。
 というのも、ADI-2 DAC FSでEdition XSを鳴らしてこりゃ凄いなーと感心した翌日に、再びXD-05 Plusへ繋いでみたら、何とも味気無いと言うか音がつまらなかったのだ。特に高域の伸びや響き、低域の衝撃感、描写の細かさは明確にグレードの低下を実感してしまい、「一度上がってしまうと下には戻れない」ってのはこういう事かー…、なんて黄昏れてしまったり。
 それでも何だかんだ暫く聞き続けていると耳が慣れてきて違和感無くなってくるのは人間の感覚、その都合良さの賜物だが、ADI-2 DAC FSに繋いでいた際の超高解像度サウンドに喜んだ記憶自体はバッチリ残ってるのがまた何とも。しっかりした上流と組み合わせて、しっかりと音楽鑑賞することをそれとなーく要求してくる?風情が実に高級機的だねえ、なんて。

 インストゥルメンタル、クラシック、ジャズ、テクノ、ロック、ポップス……とライブラリの中から手当たり次第に再生してみたが、特に苦手なジャンルってのは無さそう。真面目なモニター?っぽい鳴らし方なので、ジャンルの得手不得手以上に音源の良し悪しが大事。ADI-2 DAC FSくらいの上流に繋ぐとホントに細部まで見通せるような感覚を得られるので、録音が雑な曲はすぐバレると思われ。注意。


<装着感>
 人によってはかなりクリティカルしそうなのがコレ。側圧がめっちゃ緩い。
 自分は特別小顔ってワケじゃないのだが、殆どヘッドバンドを伸ばさない状態(※最も縮めた状態から一段階だけ引き出したくらい)でジャストフィットしてしまったので、モデル並みに小顔の人なんかはスカスカになってしまう可能性が高い。

 イヤーパッドは肌との接触面にジャージ素材?を使っており、蒸れにくく中々快適。硬さも程々。
 ヘッドバンドがシンプルな構造でハンモックタイプ宜しく圧力を広く分散させるようになってないので、長時間着用し続けていると頭頂部への負担がちと大きめ。定期的に軽く着用し直してバンドの位置を前後にズラせば対処は可能。

 イヤーパッドとヘッドバンドの両方に言えることだが、ガッツリ合皮を使いまくっているので汗っかきさんや夏場は要警戒。涼しい室内で使い、使用後は柔らかいハンカチやタオルで汗や皮脂をきちんと取り除いてから片付けるべし。
 或いはヘッドバンドだけでも密林辺りで売ってるカバーを使うと良いかも。それか夏場はヘッドバンドに小振りなタオルハンカチでも巻いとくとか。


<遮音性・音漏れ>
 殆ど完全開放型と言って差し支えないような構造(※ハウジングがハウジングと言うか恐らくぶっちゃけただの枠)なので、遮音性も音漏れ防止も何もクソもあったものではない。(真顔
 スタンドに引っ掛けてテキトーなプレイリストを流してやれば一昔前のちょっとしたミニコンポの出来上がりである。エコデスネー(しろめ


<その他>
 リケーブルは3.5mmの両出しというありふれた形式なので選択肢は多そう。……むしろ個人的に、今んとこネト通探して引っ掛かってくる対応ケーブルが軒並み15kくらいする高級品ばかり、ってのが目下最大の懸念事項と言いましょうか……
 いやクオリティ考えたらそのくらいハイグレードなケーブル使ったって損は無いと思うが、しかしケーブルに15k払うのは一般人寄り?な金銭感覚持ってる身としてはちょっとしんどいのよねえ…

 今更だが、インピーダンスこそ低い(18ohm)ものの能率が低め(92dB)なので、駆動力に優れたDAP・HPAは必須。DAPならバランス出力に対応しオーバーヘッドの駆動が想定されているもの、PHPAでもなるべく高出力なモデルが欲しいところ。
 一応、XD-05 Plusレベルの駆動力があれば音量は十分稼げる。直近のモデルで言えば、FiiO M17やiFi xDSD Gryphon辺りを使えるなら先ず問題無いだろう。


<まとめ>
 実質で言えば42kという格安価格でこんな調子なので、正直かなり良い買い物出来ちゃったなー、ってのが率直な感想。音質的なコスパはかなり高いはず。
 ミニコンポもかくやという盛大な音漏れと、美音ではなく思いっきり真面目なモニター傾向の鳴り方、合皮製ヘッドバンドの消耗ってのを一通り許容出来るなら大変オススメ。平面駆動型入門にも良さ気。

 自分は音響機器に対して真っ先に「解像感の高さ(≒籠もり曇りの無さ)」を求めるタチなので、その点Edition XSはド直球に好みをブチ抜いてきた。中でも刺さりそうで刺さらない高域と、引き締まった質感が気持ち良い低域は特筆モノ。勿論、その間ではっきり明瞭に聞こえる中域も頗る上質。
 「ミドルクラスの価格でハイエンドの音を味わえる」なんてレビューもあったが、正にその通りな機種だった。いやあホントに良い買い物だったなー……(大二言






※追記[220409]:聴き比べとリケーブルについて

 Edition XSをそこそこ使い続けて音の傾向を大体掴めた所で、同じ平面駆動型であり、我がレファレンスの一角であるT60RPとの聴き比べを実行してみた。
 上流はいつものADI-2 DAC FS+M3X。先ずT60RPで散々色々リスニングしてから、Edition XSにスイッチした。
 すると、

「――ぇ゛、何じゃこの鳴り方は……?!」

 初っ端からEdition XSの鳴りに激烈な違和感を覚えてしまって愕然。フォーカスが定まってないというか、特定の音だけがやたら前に出て来て音楽の全体的なバランスがしっちゃかめっちゃかになってしまっている、っつーか。正直めちゃんこ聞き辛い。どういう事なの……

 此処でふと思い出されたのが、Edition XSの海外レビューを読み漁っていた際にチラホラ見掛けた「中域が希薄」という声。高域と低域がはっきりしっかりしているのに対して中域の存在感がイマイチ、的な感想があったのだ。
 先程自分が感じた違和感とは少々ニュアンスが異なるかもしれないが、もしかしてコレの事か?、と。聴き比べたT60RPは素性がモニター機故に鳴りのバランスが滅法良いので、それこそEdition XSが「中域薄過ぎ!」であれば、T60RPから切り替えた途端強烈な変化を感じ取ってもおかしくは無かろう。

 海外レビューによればこの中域薄杉問題はリケで多少改善出来るっぽいので、早速ケーブルを物色してみた。Edition XSの購入とほぼ同時期に、以前Thieaudio Oracleを購入した中華オーディオセラーLinsoulから「4.4mmバランス端子を6.3mmステレオ標準プラグへ変換する」という非常にニッチなアダプタ(ddHiFi DJ65B)をADI-2 DAC FS用に仕入れたので、折角だから4.4mmバランスケーブルまで含めて捜索。
 そんで引っ掛かったのが、前にSE215やIE8用のケーブルを購入したことがある「NOBUNAGA Labs」から最近発売されたばかりの「霧降」。錫メッキを施したOFC線を使ったというケーブルで、御値段何と約16k! …………そうか、10k超えちゃうかー…………(遠目

 他には先日SP-5用のケーブルを買ったonsoの「hpct_03_bl43」、霧降と同じNOBUNAGA Labsでもう少し値が落とせる「吹割」「華厳」辺りを考えたが、何れにせよ値段は10kオーバー。またモノによっちゃ在庫切れ(hpct_03_bl43)や生産終了品(華厳)になっていたりで入手性があんま良くないと来た。
 此等より安いモノとなると密林の出処がイマイチ不確かな中華ケーブルくらいしか選択肢無かったので、こうなりゃもう覚悟決めようと「霧降」の購入を決意。……まさかオーディオ用ケーブル如きに15kオーバー、即ち諭吉と一葉を一枚ずつも切るハメになるとは……(死魚目

 んで霧降とDJ65Bがほぼ同タイミングに到着してくれたので、早速使ってみた。
 ソースは勿論ADI-2 DAC FS+M3X。霧降にはDJ65Bを噛ませてADI-2 DAC FSの6.3mm出力へ。

 結論から言うと、付属ケーブル使用時に感じた違和感は霧降で解消出来た。但し、霧降の効果で中域が特別濃くなった訳ではなく、むしろ変化が目立ったのは高域や低域。
 具体的に言えば「高域はより高く、低域はより低くまできちんと聞こえる」ようになった。その御蔭か「上から下まで音がハッキリした」他、「鳴りの焦点が標準的な塩梅に落ち着いた」。特に三点目については付属ケーブル最大の難点だったので、此処が改善出来たのはかなりホッとした。
 俗っぽい表現を使うなら、付属ケーブルから霧降へ切り替えると「解像感・明瞭感が向上し、特殊な風情だった分離感や、所謂定位?が落ち着く」って次第。付属ケーブルには特定の音を抜粋して聞かせるような不可思議な性質があるのに対し、霧降にそういう変な癖は無く、単純にどの音もしっかりクッキリハッキリ鳴らすようになってくれた。良い意味かつ高レベルで無難な音、というか。
 自分は気にならなかったが一応の懸念として、Edition XSと霧降の組み合わせでは多少サ行の歯擦音やパーカッション等の破裂音が刺さり易くなる傾向が見られた。レベルとしては丁度T60RPとDT1990PROの間くらい。その辺敏感な人はやや注意。

 霧降と付属ケーブルの聴き比べが出来たところで、T60RP→Edition XSで感じた違和感が本当に付属ケーブル「だけ」によるものなのか、ソレを明らかにするべく今度はEdition XS+霧降とT60RPを聴き比べてみた。
 結果として、やはりT60RP→Edition XSで覚えた違和感は付属ケーブルに起因する可能性が濃厚。T60RPからEdition XS+霧降へスイッチして感じたのはあくまでも二機種間の音色差であって、先述したような「激烈な違和感」は皆無だった。…………事此処に至ると、むしろ付属ケーブルはどういう代物だからあんな聞こえ方をしてしまうのか、そっちの方が気になってくるというか……

 因みに違和感の有無ではなく普通の観点からT60RPとEdition XS+霧降を聴き比べた場合、恐らく振動板のサイズによる所が大きいと思うが、前者は音像が割りかしコンパクトに纏まるのに対し、後者は広大な音響空間のド真ん中に突っ込んでいるような感覚を得られる。全体を俯瞰するのであればT60RPが適しており、音楽を構成する音の要素一つ一つを選り分けたいのであればEdition XS+霧降が最適。
 一例として、イージーリスニングであればT60RPの方が纏まりの良さ故に使い易気。ガッツリ前のめりに音楽を聴き込むならEdition XS+霧降の方が楽しめそう。

 霧降そのものの品質についてだが、流石に16k近いだけあって中々のモノ。プラグのスリーブは全て金属製でマット仕上げ、端子の金メッキはキズも無く綺麗。線の編込みは丁寧で、分岐前と分岐後の何方も柔らかく取り回し易い。
 以前IEM用に色々買い漁った中華ケーブルは実用に差し障り無い範囲の傷やら不具合やらがちょいちょい確認されたのに対し、霧降は凡そパーフェクトと言えるクオリティだった。実際にEdition XSと組み合わせた際の効果も踏まえると、本当に完璧。良い仕事してますねえ。

 ついでにDJ65Bについても。重量感あるしっかりした作りのアダプタで、6.3mm端子(オス)と4.4mm端子(メス)の軸を重ねるのではなく敢えてズラす事でサイズをコンパクトに収めたのが中々巧い。仕上げは綺麗でメッキ不良等は確認されず。
 ……実はddHiFiの製品はFiiO名義のOEM?品(USB-C to C OTGケーブル「LT-TC1」)という形で既に使った事があったり。アレも中々良い製品である。

 しかしまさかSP-5に引き続いてEdition XSでも付属ケーブルからのリケーブルを敢行する羽目になるとは夢にも思わなんだ…………嗚呼累計出費が悍ましい事に…………(乾笑
 だがあの違和感を放ったらかしたままEdition XSを使い続けるのは到底無理だったし、結局は必要経費だったって事か……音響ってのは厄介な趣味よなあ……(溜息


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